医療過誤
医療過誤

転医義務

医師などの医療機関は、医療法により、患者の症状に応じた良質で適切な医療を行うことが求められます。
そして、自らの専門外であったり、自らの施設では十分に対応できない場合には、専門医や施設の整った医療機関に患者を転医させなければなりません。
では、医師などは、適切に患者を転医させなかったことにより生じた結果について責任を負うことになるのでしょうか。

先の最高裁平成7年6月9日判決では、医師等が医療水準と認められる治療方法などに対する知見を有しなかったために、治療が可能な他の医療機関に転医をさせるなど適切な措置を採らなかった場合に診療契約に基づく債務不履行責任が認められました。
そして、大阪高裁平成9年9月19日「ヘルペス脳炎事件」判決において、「医師としては、・・・、インフルエンザ様感冒だけでなく、ヘルペス脳炎等その他の重大な脳の疾病をも疑うべきであり、一般開業医であっても、機械器具等の設備を要せず、単に患者の身体を持って動かすだけで、容易に行える項部硬直、ケルニッヒ徴候の検査を直ちに実施して、髄膜炎、ヘルペス脳炎に罹患している疑いの有無を判断する義務があるということができ、その疑いがある場合には、確定診断のため、及びヘルペス脳炎は予後が悪く、重篤な後遺症を残すことがあるから、その治療に適した高次の医療機関へ転送し、抗ヘルペス剤の投与が受けられるようにするなど適切な措置を講ずべき注意義務があったといえる。」と判示され、東京高裁平成10年9月30日「C型肝炎転医不実施事件」判決では、「医師ないし医療機関(以下「医師等」という。)は、診療契約に基づき、又は医療の専門家としても、患者に対し必要かつ適切な医療を行う義務があるが、そのためには、まずもって、当時の医療水準に応じた症状の医学的解明と診断がされなければならず、医師等は、診察の結果等により、重篤な疾病の可能性か予想されるがみずからその確定的な診断を下すことが困難な場合には、状況に応じて患者又はその家族等に病状を説明し、必要な情報を与え、場合によっては他の専門医、大病院での精密検査、入院等を指示したり指導する義務があり(医療法1条の4第1項第2項参照。)、患者に精密検査の受験や入院を回避したい意向かあるからといって、病状の説明をせず、必要な情報も与えず、確定診断をしないまま漫然と診療を続け、その結果病状に応じた適切な医療(医師等と患者の信頼関係の下に、延命、治癒、緩解等のために当時の医療水準に応じた最善の方法を尽くすことか医療の本質にあると考えられ、必ずしもその効果が確実なものでなければ意味のないものということにはならない。医療法第1条の2第1項参照。)を受ける機会を失わせた場合は、診療契約上または不法行為上の過失かあるものとして、これによって患者に生じた損害を賠償する義務があると解せられる。」と判示されています。

また、大阪地判平成10年10月21日「ウイルス性髄膜炎転医不実施事件」や名古屋地裁平成12年9月18日「精索捻転症転医不実施事件」においても、それぞれの原因疾患について認識することが十分可能であり、転医を勧告しなかった点に医師の注意義務違反を認める判断を行っています。

以上のことから、医師には、診断当時の医療水準に照らして原因疾患の可能性を認識することが可能であり、当該医師において検査・治療が不可能であるならば、医師や設備が整った医療機関に転送する義務があるのです。

また、医師は、転医が必要であると判断した際に、ただ転送すればよいというわけではありません。名古屋地判昭和59年7月12日「未熟児黄疸症状転医事件」判決では、医師は、転送にあたって受入先の病院に患者受入れを応諾するよう求める義務、受入先に患者の病状を説明する義務、患者の病状に応じて安全かつ迅速に送り届ける搬送義務を認め、静岡地沼津支平成5年12月1日「気管内挿管不実施事件」判決では、転送の際に気管内挿管術を実施しなかった医師の注意義務違反を認めています。

ですから、医師としては、転送にあたり転送先への確保、転送先での処置がスムーズに行えるような説明を行い、必要であれば応急の処置を行う必要があるといえるのです。

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