医療過誤
医療過誤

痰による窒息を防止する注意義務

  • 痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止すべき注意義務
  • 東京地裁平成18年3月6日判決の事例を参考
  • 6,655万円の支払いを命じた事例

ケース

【大学病院での治療】

妻は、2月11日、自宅のトイレで倒れたため、救急車で大学病院に運ばれ、そのまま入院しました。このとき、妻には意識障害と右片麻痺が認められ、左視床出血及び脳室内穿破と診断され、保存的治療を受けることになりました。

妻は、大学病院に入院中、嘔吐や痰が多く、呼吸状態の悪化等が心配されたことなどから、気管内挿管による呼吸管理を行ってもらいました。
また、妻は、2月19日、痰からMRSAが検出されたことにより、肺炎及び誤嚥等の予防のため気管切開術を受けました。

【転院】

妻は、3月1日、左視床出血及び肺炎等の症状が安定してきたため、今回妻が呼吸困難をきたした病院に転院しました。

このとき、大学病院からは、2月20日ころから妻に発熱及び喀痰の増加が認められたこと、喀痰の細菌培養検査においてMRSAが検出されたことの申し送りがなされ、呼吸状態悪化の可能性が指摘され、最低1時間に1度は口腔、側管、気道からの吸引を行うべきあるとされていました。妻の痰は、粘稠性で、時折血が混じっていました。

3月5日午前6時には、動脈血酸素飽和度が92%に低下して、呼吸不全に近い状態にあり、気管カニューレが詰まり気味であることも疑われていました。

【気管閉塞事故】

3月6日午前11時30分ころ、妻に装着した心拍モニターのアラームが鳴ったため、看護師がその画面を見ると、心拍波形が長く伸びて正常な形ではなく、心拍数も28と低下していたそうです。
そこで、看護師は、妻の病室に駆けつけたところ、妻の呼吸が停止し、顔色不良であったため医師に報告し、その医師が気管カニューレに接続されていた酸素供給用チューブを外してアンビューバッグを接続して強制呼吸を開始し、途中からアンビューバッグによる強制呼吸を看護師に行わせ、心マッサージを行うなどしたそうです。

ところが、アンビューバッグで空気を送ることはできたものの、空気が戻ってこないため妻の胸部が膨満状態となり、アンビューバッグを押すのにも抵抗が感じられるようになったため、気道が痰で詰まったものと判断し、アンビューバッグを外し、吸引カテーテルを挿入して看護師に吸引を行わせ、痰の塊を排出させたそうです。

その後、妻の血圧が触れるようになり、心拍数も増加したため、人工呼吸器を装着しての呼吸管理が行われたそうですが、低酸素脳症となり遷延性意識障害の後遺症が残りました。

質問

今回の事故は、病院が、大学病院から喀痰の増加や最低1時間に1度は口腔、側管、気道からの吸引を行うべきあると指摘されていたにもかかわらず、痰まじりの凝血塊を妻の気道につまらせ、即座にそれを取り除かなかったことによると考えていますが、病院に損害賠償義務が認められるでしょうか。

説明

【医療器具の説明】

気管カニューレとは、気管切開術後、開窓された部位から気管内に挿入されるパイプ状の医療器具のことです。

また、アンビューバッグとは、呼吸が止まってしまった時や人工呼吸器を使えないときに使用する風船みたいなものの先にマスクがついているもので、救急蘇生の際に使用される医療器具のことです。

【東京地裁の判断】

奥さんの痰は、粘稠性で、時折血が混じっていたことからすると、通常の痰とは異なる凝血塊のようなものが生じる可能性も十分考えられたと認定しました。

そして、これを前提に、医師は、少なくとも、奥さんの呼吸状態を綿密に観察するとともに、頻回に、痰の吸引、気管カニューレの交換を行い、痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止すべき注意義務を負っていたものというべきであると判断しました。

また、医師には、奥さんに凝血塊のようなものが生じることを予測することができたことから、上記した注意義務を怠った過失があると判断しました。

さらに、結果的には、吸引カテーテルにより凝血塊を吸引することができなかったとしても、痰が時間の経過に伴って固まる前に吸引処置を行えば、これを除去することは可能であり、頻繁に痰の吸引を行っていれば、カテーテルで吸引することができない凝血塊も生ずることがなかったといえ、気道閉塞を避けることもできたと判断しました。

そして、医師の過失と奥さんの後遺障害との間には因果関係が認められ、病院に約6,655万円の損害賠償を命じました。

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