医療過誤

医療過誤

手術にあたっての説明義務

  • 脳肺癌手術における説明義務
  • 東京地裁平成15年10月9日判決
  • 275万円の支払いを命じた事例

ケース

【経緯】

父は、9月3日、胸部エックス線検査の結果、右肺下奥、背中に近い部分に3?大の腫瘤があり、癌か結核の疑いがあるとして、2週間の検査入院を勧められました。

私は、知人の医師に相談し、父の診断を行ってもらうことにしました。

9月4日に知人医師に父の診断を行ってもらい、右肺に3?弱の球形の陰影があり、癌の可能性があること、まだ小さいから切除すれば十分に治る可能性があることの説明を受けました。

そして、医師から、父に対してどのように説明するか尋ねられたので、私は、父には癌だろうと言う、父に言っても大丈夫だと思うと答えました。

【入院時の説明】

父は、9月9日、肺癌の疑いで知人医師の病院に入院しました。

父は、入院前から、進行癌で手術をしても治る可能性が低い場合には手術を受けたくないと考えており、抗癌剤治療についても否定的な考えを持っていました。

そこで、私は、知人の医師に、父の病状について説明を聞きました。
なお、私が知人の医師と話したことについては、内緒にして欲しいとお願いしています。
そして、知人の医師からは、右肺下葉に直径2.8?くらいの腫瘍があり、検査結果では腺癌であると思われ、手術をした方がいいと説明されました。

私は、リンパ節への転移について確認したところ、知人医師からは、縦隔に1つ1?大のリンパ節があるが、1つしかないので転移としては、典型的ではないので炎症ではないかと思っているとの説明がありました。

さらに、私は、知人医師に対して、腫瘍の大きさが2.8?というのはステージ?ということでいいのかと尋ねると、ステージ?だろうと思うが、リンパ節は病理の検査をしないと断定できず、転移であればステージ?Aになるとの説明がありました。

そこで、私は、ステージ?Aであれば予後が良くないので手術はしない方がいいと思うが、手術をしない場合はどれくらい生きられるとかを尋ねたところ、手術をしないと進行は速いと思うし、リンパ節は多分転移ではなく炎症から来たものだと思うので、手術した方がいいと思うとの説明がありました。

【9月16日の説明等】

知人医師の方から、父、母、私対して、父の症状や治療方針について説明が行われました。
知人医師の説明は、右肺下葉に2.8?大の腫瘍があり、良性でも悪性でもこのままにしておくのはよくないので切除した方がよいこと、手術は同月18日の予定であり,手術の内容や術後の注意事項や処置についても説明がありました。
そして、父は、私たちとも相談の上、手術についての同意をしました。

【第1回手術後の説明】

知人の医師から、私たちに対し、下葉だけの切除の予定だったが中葉に2か所炎症だと思っていたものが、病理で迅速生検したところ、癌の転移だったので中葉も切除したこと、それが血行性転移だと思うこと、肺門リンパ節に転移があったこと、中葉も切除しても分量が小さいから機能的には問題ないことなど、詳しい説明はあとで行うとの説明がありました。

私は、中葉の腫瘤はレントゲンやCTでは分からなかったのかと聞くと、知人医師から、レントゲン又はCTに写っていたが、炎症であると思っていたとの回答がありました。

そして、知人医師は、中葉は体積が小さいから機能面で日常生活は大丈夫であるが、癌についてはステージが?B期になっており、予後はよくないとの説明がありました。

質問

父は、進行癌であれば手術はしたくないと言っていたわけですし、私も父の癌の進行の程度については確認していたわけですから、父の癌の進行の程度については慎重に確認し、手術すべきか否かの判断をすべきでなかったかと考えています。
安易に手術をした医師や病院に責任はないのでしょうか。

説明

【癌進行の程度と手術適格】

手術適応の有無は、癌の臨床病期(ステージ)及び患者の肺機能等によって判断することとされ、なかでも癌の臨床病期(ステージ)は判断に際して重要であるとされていました。

そして、臨床病期(ステージ)は、身体所見やCT等の画像所見などで得られた情報に基づき、肺の原発腫瘍の広がり(T分類)、リンパ節転移の有無(N分類)、遠隔転移の有無(M分類)のそれぞれについて点数をつけ、その組合せ(TNM臨床分類)で0期から?期の臨床病期(ステージ)に分類されます。

ケースの事件は平成8年に起きた事件で、平成8年当時の医療水準を前提にした癌進行の程度と手術適格との関係は、次のようなものでした。
?B期については、一般的には外科的手術をしても予後は不良であり、手術適応なしと考えられており、欧米をはじめ,世界各国の趨勢は、?B期はまったく手術適応外と見なされており、?B期の手術成績に関する報告は皆無に等しい状態でした。他方,日本では、T4(大きさと無関係に縦隔、心臓、大血管、気管、食道、椎体、気管支分岐部に浸潤の及ぶ腫瘍又は悪性胸水を伴う腫瘍)に属する気管分岐部浸潤例や左房浸潤例では、根治的切除ができるものではその予後は比較的良好であるので、?B期をおしなべて手術適応から除外するということではないとされ、?B期についても、根治的切除ができ、予後が比較的良好と判断されるものについては、かなりの施設で積極的に手術が試みられていました。

さらに、胸郭内に癌の進展がとどまる場合も、肺内転移(癌性リンパ管症も含む)があれば手術適応がないとする意見もありましたが、?期例のうちで肺内転移例は肺外臓器転移例よりも手術予後が良好とする報告もみられ、肺内転移例に限っては手術適応の再検討が必要であり、肺内転移例のうち扁平上皮癌の同一肺葉内転移例、腺癌、小型肺癌例の場合には縦隔リンパ節転移のない同一肺葉内転移例に限って手術適応に含めてよいとする意見もありました。

【東京地裁の判断】

第1回手術前のお父さんの臨床病期について、知人医師は、右肺下葉に直径約2.7?大の悪性腫瘍(癌)が存在するが、右肺中葉への癌の転移はなく、右肺中葉のCT所見は炎症(中葉症候群)によるものであり、T1(腫瘍径3?以下で臓側胸膜、主気管支に癌浸潤のないもの)に当たるとの判断しました。

そして、第1回手術中の迅速診断の結果は、右肺中葉に癌の転移があることを示しており、同側他肺葉内に肺内転移がある場合はT4となり、その場合、臨床病期が?B期又は?期と判断されました。

お父さんについては、第1回手術当時、一般的に手術適応がなく、仮に手術に踏み切るとしても、それは手術予後が良好である少ない可能性に賭けるいわば試行的な手術であったと認定し、そのことについて、お父さんに十分な説明をし、お父さんの十分な理解と少ない可能性に賭ける決断を得ない限り、手術を行うことは許されないものであったとの判断を示しました。

そして、病院側に説明義務違反の損害賠償として275万円の支払いを命じました。

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