医療過誤
医療過誤

検査実施義務違反

  • 下垂体腫瘍の発見が遅滞した過失
  • 東京地裁平成14年4月8日判決の事例を参考
  • 130万円の支払いを命じた事例

ケース

【検査に至る経緯】

私は、視力低下や視野異常の症状があり、眼科で受診したものの、視野異常は認められませんでした。
そこで、私は、視野以上が内科の領域に属する分野に原因があるのではないかとの疑いを持ち、4月22日、内科で受診しました。

私は、担当医師に対し、脳内に何らかの異常があるのではないかと訴え、脳内の異常の有無も含めて、内科での緻密な検査・診察を強く求めました。
しかし、担当医師は、私の訴えは精神的不安からくるものであると判断し、眼科を受診するよう指示し、MRI検査等を実施してくれませんでした。

そして、私は、4月28日、眼科で検査を受けたところ、左眼の視力低下は認められたものの、視野についてはゴールドマン視野検査で異常が認められませんでした。

私は、担当医師に対し、5月6日、5月21日、6月4日、6月24日に、繰り返し内科での検査・治療を求めましたが、担当医師は、とりあってくれませんでした。
なお、私は、5月19日、同じ病院の研修医にハンフリー視野検査を行ってもらったところ視野異常が認められました。ところが、主治医は、5月26日の診察において、精神的不安から視野異常を誤って訴えているだけであり、何らの視野異常も認められないと診断しました。

それでも、私は、繰り返し視野異常を訴えて再度の検査をお願いしたところ、8月4日にゴールドマン視野検査を実施してくれることになったのです。

【検査の実施】

眼科医師は、8月18日、ゴールドマン視野検査の結果を受け、私の視力低下や視野異常が下垂体腫瘍によるものであると判断し、担当医師に早急な対応を求めたのです。

担当医師が、8月26日に下垂体前葉ホルモン検査、9月1日にMRI検査を実施したところ、9月10日に成長ホルモン・プロラクチン産生下垂体腫瘍だと判明しました。

質問

私は、当初から脳内の異常の有無も含めて内科での検査・診察を強く求めていました。
ところが、担当医は、これを取り合わず検査を行ってくれず、成長ホルモン・プロラクチン産生下垂体腫瘍の発見が大幅に遅れました。

担当医や病院に腫瘍の発見が遅れたことに責任はないのですか。

説明

【症状の説明等】

下垂体腫瘍が増大して視神経を圧迫すると、両耳側半盲や視力障害が生じることがあります。

そして、下垂体腫瘍は、視自体の異常がない場合の視力低下・視野異常の原因の一つです。

また、下垂体腫瘍では、末端肥大症になることが特徴的であり、下垂体腫瘍が増大して視神経を圧迫した場合には、両耳側半盲となるのが特徴です。

視野検査には、大きく分けてゴールドマン視野検査とハンフリー視野検査の2種類があります。

ゴールドマン視野検査とは、外側から内側に動く光が見えた際にブザーを押すという動的視野検査のことで、全体の視野の形状を検査で知ることが出来ます。

他方、ハンフリー視野検査とは、特定の位置に明るさの違う光が出て、光が見えたらブザーを押すという静的視野検査であり、で主に30度以内の中心部の視野を詳しく知ることが出来ます。

【裁判所の判断】

まず、発見された下垂体腫瘍の大きさや5月19日のハンフリー視野検査において軽度の視野異常が認められていることに照らすと、原告が視力低下や視野異常を訴えて、被告丁野医師の診察を最初に受けた4月22日から実際に下垂体腫瘍が発見される9月1日のMRI検査以前の時点において、ホルモン検査やMRI検査等が行われていれば、下垂体腫瘍が発見されていた可能性は高いと推認されると判断しています。

しかし、4月22日の診察では、下垂体腫瘍によって現れる末端肥大症に特徴的な身体的所見は見られず、下垂体腫瘍が増大して視神経を圧迫した場合に典型的に生じる両耳側半盲ではなかったところから、左眼の視野異常が本当に存在するのかどうか眼科に検査を依頼するとともに、糖尿病等、視力に影響を与える内科疾患の有無を調べるための検査を実施したことは、合理性があり、直ちにホルモン検査やMRI検査等の下垂体腫瘍を発見するための検査を行うべき義務があったと解することはできないとされました。

また、5月6日の診察においても、4月28日の眼科での検査では、左眼の視力低下が認められたが、視野についてはゴールドマン視野検査では異常がみられなかったため、下垂体腫瘍は存在しないのではないかと考えたとしても無理はなく、ホルモン検査やMRI検査等の下垂体腫瘍を発見するための検査を行うべき義務があったと解することはできないとされました。

そして、5月21日の診察においては、5月19日のハンフリー視野検査で左眼に視野異常が認められたことを告げられたが、であった(前記認定事実)。
ハンフリー視野検査において、左眼に視野異常が認められたとしても、原告は、未だ眼科医師の診断は受けておらず、眼科医師の診断を受けて、それがどの程度の視野異常であり、下垂体腫瘍を疑うような視野異常であるのかを判断する必要があると考えられ、また、視野検査で認められたと告げられた視野異常も、下垂体腫瘍に典型的な両耳側半盲ではなかったのであるから、この時点において、糖尿病の検査を行って、眼科医師の診断結果の返信を待つのみでなく、ホルモン検査やMRI検査等を行うべき義務があったとまでは言えないと判断されました。

ただ、5月26日の診察においては、4月28日の診察の結果について、担当医師に対して、患者の左眼視力低下を認めたが、ゴールドマン視野検査の結果では視野異常は認められず、さらに中心部視野等の精査をすすめていく方針である旨伝えて、これを受けて、ハンフリー視野検査を行ったものであり、ハンフリー視野検査の結果、眼科領域での緊急の検査の必要性はないと判断したものの、患者が訴えているような視野異常が判明したのであるから、眼科医師は、少なくとも、担当医師に対し、ハンフリー視野検査の結果を報告し、その検査結果に基づき、担当医師が内科的見地から判断できるようにすべき義務があるとし、8月4日のゴールドマン視野検査の結果とともに、診断結果を知らせることとし、5月19日のハンフリー視野検査の結果及び5月26日の視力検査の結果に基づく診断結果を知らせなかったことについては、上記義務を怠ったものといわざるを得ないと判断しました。

また、6月4日の診察において、担当医師が客観的な視野異常を確認した場合、身体所見からは末端肥大の症状はなく、患者の自覚症状が下垂体腫瘍により典型的に生じるものとは一致しないものであっても、患者から一貫して脳内の異常の可能性を尋ねられ、その検査まで求められた後、糖尿病等の他の内科的疾患の可能性も排除されただけでなく、患者の訴えに合致する客観的な視野異常が確認されたのであり、ホルモン検査やMRI検査等はそれ自体危険性を有する検査でも、困難な検査でもないのであるから、下垂体腫瘍の有無を調べるため、ホルモン検査やMRI検査等を行うべき義務があったと解されると判断しました。

患者は、繰り返し脳内の異常を訴え、検査を求めたにもかかわらず、これを無視されただけでなく、視力低下・視野異常の原因も究明されなかったことにより、脳内の異常があるのではないかという強い不安感を覚えかことが認められ、患者の訴えが無視されたのみでなく、結果としては、視力低下・視野異常の原因は、原告が訴えていたとおりの脳内の異常であったものであり、原告としては、自らの真撃な訴えを無視した医師に対して不信感を抱き、その後の下垂体腫瘍に対する治療においても、疑心暗鬼となったことは想像に難くないとされ、患者の精神的損害を慰謝するには100万円、弁護士費用として30万円を認めるのが相当であるとされました。

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