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医療過誤

緊急手術を行わなかった過失

  • 網膜剥離が黄斑部に達していることを認めながら緊急手術を実施しなかった過失
  • 東京地裁平成15年5月7日判決の事例を参考
  • 2,734万円の支払いを命じた事例

ケース

【白内障手術の経過】

私は、平成10年8月18日、右眼の白内障手術を受けるために入院しました。

このときの私の右眼の視力は0.6であり、視野は正常でした。

私は、平成10年8月20日、白内障手術(水晶体嚢外摘出術と眼内レンズ挿入術)を受けました。

手術の内容は、まず、上下直筋の付着部に制御糸を施したうえ、四面切開という方法で結膜と強角膜を階段状に4つに分けて切開し、水晶体前嚢は輪状に切開して除去し、次いて、水晶体嚢と水晶体皮質との間に水を注入して両者を分離し、また、硝子体脱出などが生じた場合に切開創を閉じるための強角膜前置縫合を施すというものです。

【退院までの経過】

8月21日から30日の退院までの間、私には、硝子体出血や硝子体混濁が見られ、フィブリン(眼内に炎症が起こった場合に前房あるいは硝子体に生じる炎症性混濁物)も認められました。

28日の右眼視力は0.1であったが、29日の眼底検査でも網膜剥離は認められず、硝子体混濁も徐々に消失していきました。

【平成10年9月2日の診察】

医師は、9月2日の診察で、眼底検査により周辺部に膜様物の立ち上がりがあることを認めましたが、後極側に網膜剥離が生じていないことを確認し、膜様物については検査をしませんでした。

この時の私の右眼視力は0.1であり、私は、手術の後、飛蚊症に悩まされているとか、多重複視の症状があるなどと訴えましたが、医師からは「飛蚊症は徐々に吸収されます」、「多重複視は術後の角膜等前眼部の浮腫のためで、炎症症状が治まって浮腫がとれれば、乱視眼鏡で回復するでしょう」という説明を受けました。

【9月9日から9月13日までの経過】

医師は、9月9日の診察で、眼底検査の結果、上耳側周辺部に限局性の網膜剥離を発見しました。

網膜剥離は、中間周辺部まで及ぶ下耳側胞状剥離で、下方には巨大裂孔が認められました。なお、このときの右眼視力は0.2でした。

医師は、私に対して、網膜剥離が発見されたので手術を実施する必要があるとの説明をし、翌日の9月10日か11日に入院することを勧めました。

しかし、その際、緊急手術を実施しなければ網膜剥離が進行して視力が著しく低下し、場合によっては失明の危険もあるというような説明はありませんでした。

私は、9月9日の時点ではまだ網膜剥離の自覚症状である視野欠損がなく、A医師の説明からは切迫性や緊急性を感じなかったため、自分の勤務の都合で9月11日に入院し、14日に手術することになりました。

ところが、9月10日、右眼に視野欠損が自覚されてきたため、私は病院に電話をかけ、急に病状が悪化したので入院を早めてほしいとの連絡をして、翌11日に入院しました。

診察において右眼周辺部に強い網膜剥離を認め、右網膜剥離、巨大裂孔網膜剥離、増殖性硝子体網膜症(増殖組織が硝子体基底部に増殖して網膜を牽引する症状)と診断されました。
この時は、剥離はまだ黄斑部に達しておらず、右眼視力は0.4でした。

9月12日には、網膜剥離はさらに悪化し、黄斑部にも剥離が及んで、右眼のほぼ全視野について欠損が生じました。

ところが、医師は、予定どおり9月14日に手術を実施すれば視機能を回復させることができると判断し、緊急手術実施の決定をしませんでした。

9月13日には、右眼に上方2分の1ほどの胞状網膜剥離と黄斑部の剥離、下万2分の1ほどの巨大裂孔が認められました。

【網膜剥離に対する手術】

9月14日、網膜剥離に対する硝子体手術が実施されました。

手術の内容は、硝子体切除、パーフルオロカーボンの注入、眼内レーザー光凝固、輪状締結、SF6ガスの注入などにより、網膜の復位と裂孔の閉鎖を図るというものでした。

【手術後の予後】

私は、10月2日に退院しましたが、右眼の視力は10月7日の検査でも0.1しかありませんでした。

私は、平成11年1月13日まで通院しましたが、右眼の視力は0.1のまま回復せず、転院することになりました。

平成11年4月15日の検査では、右眼に視野狭窄が認められ、同12年5月22日の検査では、視力が0.04まで低下し、矯正不能でした。

転院した病院の診断では、網膜剥離後の網膜変性により視力回復は不能と診断されました。

質問

医師は、平成10年9月9日の段階で網膜剥離を確認していたわけですから、私に緊急手術の必要性があることを説明し、直ちに手術を行うべきであったと思います。
私に緊急手術の必要性を説明し、手術を実施しなかった医師に責任はないのですか。

説明

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のとおり認定して9月12日の時点では、緊急手術を実施すべき義務があったと認めました。

9月9日の時点では、原告の右眼視力は0.2で、視野欠損などの自覚症状はなく、剥離は上耳側周辺部に限局されて黄斑部に達していたわけでもなかったから、原告の右眼に生じた網膜剥離は、まだ重症には至っていなかったと考えられる。

したがって、一般に眼底上方から始まる剥離の進行は速いという医学的知見を考慮しても、医師が9月11日に入院させて14日に手術を実施すると予定したことには、過失があるとはいえない。

しかし、その後、症状は急速に悪化し、9月12日には、網膜剥離が黄斑部に達した。
裂孔原性網膜剥離は、いったん発生すると自然に治癒する可能性は極めて小さく、放置すれば剥離が黄斑部に達して視力の著しい低下を招き、失明に至ることもある疾患であり、陳旧化すると剥離した網膜に線維膜が形成されて、網膜が剥離したままの形で器質化するおそれもある。

したがって、症状が急速に悪化した場合には、緊急手術を実施して、剥離した網膜を早期に復位させる必要がある。

そうすると、医師としては、原告の症状が急速に悪化して網膜剥離が黄斑部に達したことが判明した9月12日の時点では、14日に予定していた手術を繰り上げて、直ちに緊急手術を実施すべき義務があったといわなければならない。

ところが、医師は、網膜剥離が黄斑部に達したことを認識しながら、直ちに緊急手術を実施せず、9月14日まで網膜剥離の進行を放置した。

したがって、この点において医師には過失が認められる。

そして、裁判所は、2,734万円の支払いを命じました。

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