後見制度支援信託とは
後見制度支援信託とは,本人の財産のうち,日常的な支払いをするのに必要十分な金銭を預貯金等として成年後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行などに信託し,その払戻などには家庭裁判所の指示書を必要とする制度のことです。
後見制度支援信託は,成年後見と未成年後見の場合にのみ利用できます。
後見制度支援信託を利用すると後見人は,日常的な支払いをするために必要となる預貯金などを管理し,定期的に必要となる支出は,その都度,信託銀行から払い戻しを受けて行うことになりますので,後見人が本人の預貯金などを流用する危険が少なくなります。
信託することができる財産は,現在のところ金銭のみです。なお不動産や動産を売却して金銭を信託することまでは予定されておらず,値動きのある株式や投資信託などの金融資産を売却して金銭を信託することについては,個別の事案ごとに判断されるべきものとされています。
自宅を修繕する,予定していなかった治療を受けるなどの信託財産から臨時に支払いをする必要が生じた場合,親族後見人は,臨時の出費が必要である理由,その金額などを記載した報告書と資料を家庭裁判所に提出し,家庭裁判所から指示書を発行してもらう必要があります。
そして,親族後見人は,信託銀行などに指示書を交付し,信託財産の払い戻しを受けることになります。
本人に臨時の収入があり,信託財産を追加する場合についても,家庭裁判所に対して報告書と資料を提出し,家庭裁判所から指示書を発行してもらい,信託銀行などに提出する必要があります。
また,当初予定していた信託銀行からの定期交付金額では,必要となる支払いを行うことができなくなった場合にも,家庭裁判所に対して報告書と資料を提出し,家庭裁判所から指示書を発行してもらい,信託銀行などに提出する必要があります。
後見制度支援信託は,親族後見人だけの判断で本人の財産を使用することができず,柔軟性に欠ける面はありますが,その分,本人の財産が危険にさらされる可能性が大きく減少しますので,本人が比較的多額の現預金を保有されている場合には,後見制度信託の利用を検討されてもよいかもしれません。
専門職後見人の関与
後見制度支援信託を利用する場合,専門職後見人が選任され,専門職後見人が信託銀行などと交渉を行い,信託条件を整えた上で信託契約を締結し,親族後見人に後見事務を引き継ぐのが一般的です。
専門職後見人から親族後見人に後見事務を引き継ぐ方法としては,両者を同時に選任する方法(複数選任方式)と,専門職後見人が信託契約を締結し,辞任するのと同時に親族後見人を選任する方法(リレー方式)の2種類があります。
いずれの方法を採用するのかについては家庭裁判所によって異なりますので,家庭裁判所と確認して後見事務の引継ぎを行う必要があります。
いずれの方式が採用されるにしても専門職後見人には,専門家としての立場から信託条件に関する決定を行うことが求められます。
具体的には,本人の心身の状況や財産状況を踏まえて,日常的な支払いをするのに必要十分な預貯金などの金額の設定,信託財産とする金額の設定し,家庭裁判所に報告書を提出することになります。
家庭裁判所は,専門職後見人の報告を踏まえて信託契約締結の指示書を交付し,専門職後見人は,信託契約を締結することになります。