売買契約
売買契約

買主の権利

買主の権利

新法では,売主が,種類,品質,及び数量について契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負うことを前提に,契約の内容に適合しない場合には,買主に,補修や代替物の引渡し等,売主に対して履行の追完を請求する権利(562条1項本文),代金の減額を請求する権利(563条),損害賠償を請求する権利(564条・415条),契約を解除する権利(564条・541条・542条)が定められています。

種類,品質,及び数量について契約の内容に適合した目的物を引き渡さなかった場合に発生する売主の責任のことを売主の「契約不適合責任」と呼び,この場合の買主の権利が定められています。

売主の「契約不適合責任」は,「契約の性質,契約の目的,契約の締結に至る経緯等の契約に関する諸事情等とともに,取引に関して形成された社会通念を考慮して」判断され,これらに基づいて,売主の「契約不適合責任」が果たされていないと判断された場合に,買主に上記した権利を認めているのです。

以下では,「売主の契約不適合責任」が認められる場合の買主の権利を個別に見ていきましょう。

1. 履行の追完請求

売主が買主に契約に適合しない目的物しか交付していない場合,売主は,売買契約に定められた義務を果たしていないことになりますので,売主の責任の有無にかかわらず,買主は,契約に適合するように,目的物の補修,代替物の引渡し,不足分の引渡しを請求することができます(562条1項本文)。

買主は,履行追完の方法が複数ある場合,どのような方法により履行の追完を求めるかを選択することができます(562条1項本文)。 しかし,売主は,買主に不相当な負担を強いることにならない限り,買主が選択した方法とは異なる方法により履行の追完を行うことができます(562条1項但書)。

売主に履行追完方法の選択の余地を与えた理由は,容易に,また,安価で補修することができるにもかかわらず買主が代替物の引渡しを求めた場合,売主の負担があまりにも大きくなりすぎるからです。

買主の責任によって目的物が契約に適合しなくなった場合にまで買主に履行追完請求を認める必要がありませんので,この場合には,履行追完請求は認められません(562条2項)。

また,売主は,履行の追完の義務を負わない特約を行った場合であっても,契約に不適合な事項について知りながら告げなかったものについては責任を逃れることができません(572条)

2. 損害賠償請求

売主が契約に適合した目的物を引き渡さなかった場合,補修等の履行の追完を受けることができたとしても,それによって補填することができない損害が買主に発生していることがあります。

この場合,買主は,売主に対して,補修等の追完請求を行った上で,損害賠償請求を行うことができます。ただし,「契約の性質,契約の目的,契約の締結に至る経緯等の契約に関する諸事情等とともに,取引に関して形成された社会通念を考慮して」売主の責任によって発生した損害ではない場合には,損害賠償請求は認められません。

買主は,補修等の追完請求を行うことなく損害賠償請求を行うことができるのか,あるいは,補修等の追完請求を行った上で,①補修等が不能である場合,②売主が補修等を拒否する意思を明確に示した場合に損害賠償請求を行うことができるのかについて,既に考え方が分かれています。

売主の契約不適合責任に基づく損害賠償請求の根拠を,前者は415条1項とし,後者は415条2項としています。

損害賠償請求関する考え方の対立は,新法が施行された後の裁判例の蓄積によって解消されることになるのでしょうが,それまでに相当の時間を要します。

その間,買主が売主に対して損害賠償請求を行う際に,補修等の追完請求を行う必要があるのかということが訴訟のたびに問題となり,売主,買主の双方が不安定な状態に置かれることになります。

このような問題を事前に回避する方法として,買主が売主に対して損害賠償請求を行う際に,補修等の追完請求が必要であるのか否かを契約書に明記しておくということが考えられます。

買主が売主に対して求めることができる損害賠償の範囲は,通常生ずる損害(支払った代金の全部あるいは一部),売主が予見すべきであった事情によって生じた損害(売主が転売されることを予見すべきであった場合には転売益等)となります。

買主は,売買契約を解除しない限り,売買代金を支払う義務を負うことになりますが,買主が,履行の追完請求に代えて,または,履行の追完請求とともに損害賠償請求を行っている場合には,売主が損害賠償を行うまで売買代金の支払いを拒否することができます(533条)。

3. 契約解除

新法では,売主の責任の有無にかかわらず,契約内容の不適合が生じた場合,買主は,契約を解除することができます。

ただし,買主の責任よって契約内容の不適合が発生した場合にまで,買主を売買契約の拘束から解放する必要はありませんので,解除は認められません(543条)。

買主に認められた解除には,催告解除(541条)と無催告解除(542条)の二種類があります。

  1. 催告解除

    催告解除は,買主が相当な期間を定めて履行の追完請求を行ったが,売主がこれに応じない場合に解除を行うことができます。

    ただし,「契約の性質,契約の目的,契約の締結に至る経緯等の契約に関する諸事情等とともに,取引に関して形成された社会通念を考慮して」不適合の程度が軽微である場合にまで解除を認めると売主に酷な結果となりますので,買主による解除は認められません。

  2. 無催告解除

    旧法から認められていた「契約の全部の履行が不能であるとき」(1項1号),「契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の目的又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,債務者が履行をしないでその時期を経過したとき」(1項4号)に加えて,「債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき」(1項2号),「債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において,残存する部分のみでは契約目的を達することができないとき」(1項3号),これら以外にも,「債務者がその債務の履行をせず,債権者が催告をしても契約目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」(1項5号)に,買主は,催告をすることなく契約を解除することができます。

    また,「債務の一部の履行が不能であるとき」(2項1号),「債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確にしたとき」(2項2号)には,催告をすることなく契約の一部を解除することができます。

契約不適合の程度が軽微である場合,催告を行ったとして契約を解除することができないのですが,契約の全部の履行が不能であるときには催告をすることなく契約を解除することができます。

しかし,契約不適合の程度が,契約の全部の履行が不能であると判断される重度の場合と軽微な場合との間にある状態が発生する事態が予想されます。

そのような場合に,買主を契約の拘束から解放するのかどうか予め検討しておき,いかなる場合に買主を契約の拘束から解放するのかにつき契約書において定めておく必要があります。

4. 代金減額請求

新法では,売主の責任の有無にかかわらず,契約内容の不適合が生じた場合,買主は,売主に対して相当の期間を定めて履行の追完の催告を行い,その期間内に履行の追完がない場合には,代金の減額請求を行うことができます(563条1項)。

また,買主は,次の場合には履行の追完の催告を行うことなく,直ちに代金の減額請求を行うことができます(563条2項)。

  • 履行の追完が不能であるとき(1号)
  • 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき(2号)
  • 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の目的又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行をしないでその時期を経過したとき(3号)
  • 上記した以外で,買主が履行の追完の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき(4号)

ただし,買主の責任よって契約内容の不適合が発生した場合にまで,代金の減額を認める必要がありませんので,代金減額請求は認められません(3項)。

代金は,契約の不適合の程度(「不適合な物の価値」が「適合した物の価値」の何割に相当するのか)に応じて減額されることになります。なお,価値の基準時は,物を引き渡した時点であると考えられています。

代金減額請求において注意しなければならないことは,代金の減額を求めた場合,これと両立しない損害賠償を行うことができなくなるということです。

契約不適合による損害賠償の対象には,支払った代金が含まれるのですが,減額された代金部分については,重ねて損害賠償を求めることができません。

なお,代金減額請求は,契約不適合に売主の責任は必要ありませんが,損害賠償請求においては売主の責任が必要であることも注意が必要な点です。

他方,売主が予見すべきであった事情によって生じた損害については代金減額と両立する損害ですので,代金減額請求を行った場合であっても損害賠償請求を行うことができます。

売主の契約不適合が認められる場合,買主は,売主と様々な交渉を行い,契約不適合による不均衡を解消しようとします。そのような交渉の過程で行った買主の主張が代金減額請求であると評価された場合,代金減額と両立しない損害については賠償を求めることができなくなるため注意を要するところです。

5. 売買の対象が権利である場合

新法では,売買の対象が権利である場合にも,(1.)ないし(4.)の規定が適用されると規定されています(565条)。

6. 期間制限

契約不適合の内,「種類」と「品質」に関するものは,不適合であることを知ったときから1年以内に売主に通知しない場合は,(1.)ないし(4.)の請求を行うことができなくなります(566条)。

ただし,売主が,引渡時に不適合であることを知り,又は重大な過失により知らなかった場合には期間制限の規定は適用されません。 通知を行った後は,消滅時効の規定が適用され,不適合であることを知ったときから5年間,不適合が発生したときから10年間,権利を行使しなければ消滅します。

数量」と「権利の不適合」については,期間制限の規定が適用されませんので,消滅時効の規定が適用されます。

期間制限の規定は,契約により1年より短期に設定することができます。
ただし,宅建業法では責任期間を2年以下とする特約は無効とされていますし,消費者との売買契約においては,不当条項規制の対象となり無効となる可能性があります。

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