社外取締役読本

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「取締役会による法の支配」実現に向けて

社外取締役の選任率をグラフで表したもの東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2019によると,社外取締役の選任率は,東証一部上場会社では99.3%二部上場会社においても95.7%となっており,上場会社において社外取締役は当然の存在になっていると評価することができます。

このような状況を前提に,令和元年の12月の会社法改正により,長年にわたり懸案であった上場会社の社外取締役選任が義務化され,令和3年6月までに施行されることになりました。社外取締役の義務化を受けて,改めて上場会社における社外取締役の職務の内容,社外取締役に求められる役割について整理したいと思います。

社外取締役の役割は,端的にいえば,取締役会の監督機能の強化にあります。すなわち,取締役会の構成員に外部の専門家を取り入れることで,監督機能に客観性をもたせることです。

取締役会の監督機能というと,経営陣に対する抑制という言葉が最初に頭をよぎりますが,それだけではありません。会社が持続的に企業価値を高める上で,過去の経験にとらわれない積極的な経営判断というものが必要になる場面が出てきます。

積極的な経営判断は,過去の経験に依存しないわけですからリスクを伴い,判断に先立って,期待できる効果とリスクについて事前に検討し,経営陣が行った判断が許容されるものであるか評価する必要があります。そして,このような評価を適切に行うためには,そのためのシステムとそのシステムを担う人材が必要になり,既に整備されているシステムが妥当なものであるか,整備されたシステムに基づき許容できるかを判断する者が必要になります。

この役割を担うのが社外取締役です。社外取締役というのは,経営陣が,経営判断の原則・信頼の原則を前提にして,臆することなく積極的な経営判断を行うことができる,そのための支えとなる存在でなければならないのです。

社外取締役は,株主の視点にたち,また,株主以外のステークホルダーへの配慮を怠ることなく,自らの職責を果たす必要がりますが,社外取締役が職責を果たす上で必要になるのが,社外取締役の独立性・客観性です。

社外取締役の独立性・客観性は,社外取締役の資格要件によって一定程度確保されますが,会社の機関構成によっても付保する必要があります。
そして,社外取締役としては,みずからの独立性・客観性を確保するための機関の在り方についても積極的に提案していかなければなりません。

ここでは,会社法に定められている機関構成の概要,それぞれの機関構成における社外取締役の職務の内容を概観し,それぞれの機関構成における社外取締役の立ち位置を示し,より適切な機関構成を検討するための情報整理をしました。

その上で,社外取締役の職務の内容を,通常時,非常時も含めて整理し,それらの職務を行うにあたっての社外取締役が留意するべきポイントを整理しました。 社外取締役に就任している方,社外取締役への就任を検討されている方は,参考にしてみてください。また,社外取締役の選任を検討されている会社の方々も,社外取締役に求める役割を検討するにあたり,是非参考にしてみてください。

冨宅 恵

取締役会による法の支配 一覧

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「上場会社における不祥事対応のプリンシパル」(日本取引所自主規制法人)においては,上場会社の不祥事(重大な法令違反その他の不正・不適切な行為等)は,その影響が多方面にわたり,当該上場会社の企業価値の毀損はもちろんのこと,資本市場全体の信頼性にも影響を及ぼしかねないことから,自社(グループ会社を含む)に関わる不祥事又はその疑いを察知した場合は,速やかにその事実
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