「うちには財産なんてないので相続は関係ない」とおっしゃる方で、相続はプラスの財産だけでなくマイナスの財産(負債)も相続するという認識をもっておられない方が多いと実感しています。
多額の負債を抱えて亡くなられた場合には、相続人は、その負債を相続することになり返済を行っていかなければならなくなります。
わたしたちが負債も相続の対象になるという説明を行ないますと、多くの方が「親の借金を、なぜ子供が返済しなければならないのか」という返答を受けることが多いのですが、負債を相続することの不合理さも良く理解できます。
しかし、考え方を変えますと負債も相続して当然となります。
例えば、100のプラス財産と20の負債があったとし、これが相続の対象となる場合には多くの方が「負債も相続して当然」と考えられます。
負債よりもプラスの財産の方が多い場合には負債を相続することに違和感をかんじませんが、負債だけを相続するということになると相続制度の不合理さを感じられるのです。しかし、法律は「親の借金を子供が返済する」という不合理な状態を回避する制度を設けています。
これが相続放棄と限定承認の制度です。
相続放棄は、文字通り、プラスの財産、負債の全てについて相続を放棄することです。しかし、多額の財産と負債が存在する場合にトータルでプラスになるのかマイナスになるのか判断するのに時間を要することがあります。このような場合には、相続財産を精査してプラスの財産の方が多い場合にのみ相続するが、負債の方が多い場合には放棄するという選択を行うことができます。これが限定承認という制度です。
いずれも、単に「相続放棄をする」、「限定承認」をするという意思を表示したり、書面に残しておくだけでは認められず、家庭裁判所に対して申立てを行う必要があります。
相続放棄は、各相続人がそれぞれの判断で行うことができますが、限定承認は全ての相続人が共同して行う必要がありますので、限定承認を行う場合には事前の協議が必要になります。
また、相続放棄や限定承認は、相続が開始する前(亡くなられる前)に行っておくことができません。
なお、未成年の子は、単独で相続放棄の手続を行うことができず、親も相続人(利害関係人)であるため子のために相続放棄の手続を代理して行うことができません。この場合には、特別代理人を選任して、その方が未成年の子の代理人として相続放棄の手続を行うことになります。
長年音信普通の元夫が亡くなったことを最近知ったが亡くなってから3か月以上経過していても、子供は相続放棄の手続を行うことができるのかという質問を受けることがありますが、相続放棄は、亡くなったことを知ったときから3か月以内に申し立てればよいので問題ありません。
また、亡くなったことを知って3か月以上経過している方にも相続放棄の手続を行っておくことを勧めています。
家庭裁判所は、亡くなったことを知って3か月以上経過している場合にも相続放棄の受付を行ってくれ、相続放棄の申立てを行なったことの証明書を発行してくれます。
相続放棄の手続が有効に行われた否かの判断は、債権者が訴訟をしてきたときに初めて問題となり、相続放棄を行ったことを説明すれば取立てを行なわい債権者が多数います。
法的に有効であるか否かは別として、現実には一定の効果を発揮することがありますので、期間が経過した後であっても相続放棄の申立てを行なっておくことは得策であると考えています。