わたしたちに相談される方の多くの方は、当事者で話し合って解決することができなくても、裁判所での話し合いであれば相続の争いが解決すると考えておられます。しかし、裁判所で話し合ったからといって必ず争いが解決するわけではありません。
次の表をご覧ください。
この表は、裁判所の調停手続で相続の問題を話し合われた場合の決着方法が示されています。調停で話し合いを行っても6割強の事例しか話合いで解決していません。そして、実に1/4近くの事例では調停が取り下げられているのです。また「認容」とは、調停で話し合ったが話し合いが付かず裁判所の判断で一方的に財産の分け方を決定されたというものです。
実に、35%近くの事例が調停での話し合いで解決することができず、そのうち25%近くの事例は相続の争いが解決しなかったことを示しています。なお、25%の中には、当事者の話し合いで解決したために取下げた件数も含まれていると思われますが、そのような件数は多くないと考えています。
わたしたちが依頼された事例でも、裁判所に判断してもらう、あるいは調停を取下げて冷却期間をおいて改めて仕切り直すということもあります。
このような事態になる理由は、相続は難解な問題が多数存在し、それぞれが複雑に絡み合っているからという面は確かにあります。しかし、それだけではなく、相続が開始する前、あるいは相続開始直後の初動の段階で対応を誤り、相続人の間で修復しがたい亀裂が発生しているからです。
ある事例では、お父さんが亡くなられた後に、司法書士の方から何の前触れもなく相続放棄の書類に実印を押し、印鑑証明ととともに返送して欲しいという手紙が送られてきて、お父さんの預金を調べてみると、お父さんが入院中している間に多額の定期預金が解約され、解約されたお金の行方の説明を最後まで受けることができなかったことが理由となって、話し合いによる解決ができませんでした。
わたしたちに依頼された方を受取人とする生命保険があり、保険証券もお父さんから受取っていたにもかかわらず、いつの間にか証券の喪失届が提出されており、受取人も変更されていたということがお父さんが亡くなった後に判明したという事例でも、話し合いによる解決ができませんでした。
また、亡くなられた方の預金が管理されていた相続人がいて、本人が亡くなられる数年の間に多額の預金が引き出されていたという事例では、相続の争いとは別に、不当に利得した金銭の返還を求める訴訟を行うということもあります。
これらの事例でお父さんが財産を処分する判断能力がない場合には、そのことを証明して解約や受取人変更の手続を無効にして、相続財産に戻したり、生命保険金の受取りを実現できるのですが、そうでない場合、お父さんの真意に基づいて行われたものではないということを立証することが非常に難しく、生命保険や預金について不公平な結果となるため、他の遺産の分割について話し合いができないということになりかねません。
最後に、私たちに相談される方で感情のもつれから裁判所に判断してもらって分割すればよいとおっしゃる方がおられますが、私たちは裁判所の決定(審判)による解決をお勧めしていません。
その理由は、裁判所の判断で財産を分けると、それぞれの相続人が財産に対してもっている思い入れや財産の経済的価値を損なわない分け方ということを考慮してもらえないからです。
また、家業を継ぐことになった経緯や継いだことによる苦労、ご両親の介護で長年追われた苦労というのも評価が、裁判所では期待するほど望めないからです。
そもそも、裁判所が考慮しないことや、裁判官に理解してもらうのが非常に難しいことについては、血のつながった人と話し合いをすることで解決した方が、よりよい解決となるのです。