医療過誤

医療過誤

手術後の見落とし

  • 術後出血の兆候を見落とした過失
  • 大阪地裁平成15年9月29日判決の事例を参考
  • 3,755万円の支払いを命じた事例

ケース

【手術までの経過】

父は、昨年、C型肝炎ウイルスに感染し、C型肝炎から肝硬変を発症していることが判明しました。
そして、今年の11月と12月の検査で、肝細胞癌に進行していると診断されたのです。
父を診断した医師は、12月12日、15日及び19日の3回にわたってPEIT治療を実施する予定をしていました。

ところが、元主治医であった別の医師から、腫瘍がS3尾内側辺縁にあり、薬液が漏れるおそれがあるから、手術の方がよいのではないかと勧められたため、私は、PEITの実施を中止してもらい、手術の実施を検討してほしいとお願いしました。

病院では、父の肝癌について、腫瘍が小さく、また、肝臓の辺縁に位置していること、血液検査及び血液生化学検査の結果が手術に適していたこと、腹水や肝性脳症が認められないことから切除に耐えられるだけの肝機能が保たれていると考えられたそうです。
また、肝切除の方が完治性が高いと判断したそうです。この結果、肝部分切除術及び併せて行う胆のう摘出術が行われることになったのです。

12月14日、父及び母に対して、肝癌の治療として肝部分切除術を行うこと、同手術の合併症として出血、肝機能低下、胆汁瘻、術後腸閉塞、肺炎があること、さらには各合併症への対処方法などについての説明が行われました。
ただ、PEITから肝部分切除術に治療方針が変更された具体的な理由や肝部分切除術と併せて胆のう摘出術を行うことは説明しませんでした。

【手術】

父は、12月18日、肝部分切除術及び胆のう摘出術を受けました。
医師は、まず、胆のう底部を肝床部より剥離し始めましたが、その術中に胆のう壁が損傷し、胆汁が一部漏出したほか、胆のう底部が肝床部にめり込んでいた最深部において、肝硬変のため発達していた側副血行路等から、動脈性の出血やにじみ出るような出血が生じたそうです。

医師は、出血の生じていることが明らかな血管のうち、二重結紮をするに十分な長さのある血管については二重結紮による止血を行い、そのような長さがない血管については、止血の困難さ等に応じて、単結紮あるいは刺通結紮(出血点を中心に肝床被膜や肝実質等の周辺組織と一緒に針糸をかけて結紮止血する方法。)を行い、他の出血に対しては、電気メスによる凝固で止血を行い、それらの止血部位にフィブロネクチンを撒いた上、圧迫止血も施したそうです。

その後医師は、胆のう切除後、電気メスでS3で肝臓癌の認められた部位及びその周辺部を切除したそうです。

そして、医師は、腹腔内を生理食塩水で洗浄し、胆のう剥離部位等の止血ができていることを確認してから、肝床部で胆のうを剥離した部位の近くにドレーンを留置した上、閉腹したそうです。

【術後の経過】

父は、手術終了後、輸液及び新鮮凍結血漿(FFP)の投与を受けましたが、尿量の減少や血圧の低下が認められ、FFPの投与継続により血圧の改善は認められたものの尿量の減少が改善することはありませんでした。

その後、父にはドーパミン(昇圧剤)が投与されましたが、血圧の改善が認められたものの尿量が少ない状態が継続しました。そして、ドーパミンを増量するとともに、PPF(血漿製剤)とラシックス(利尿剤)も投与されことにより、一時的には血圧が改善し、尿量が増加しましたが、直ぐにもとに戻るという状態でした。
このとき、診察していた医師は、父の腹部がボッテリとした状態であることを確認しましたが、出血の可能性は疑わなかったそうです。

その後も父の血圧低値、尿量減少、頻脈という状態が継続しました。
なお、ドレーンからの排液は、少量認められる程度で、性状についても、淡血性のものが認められる程度だったそうです。

医師は、翌日の朝になって、本件手術後初めて父の血液検査及び血液生化学検査を行いました。この日は、ドレーンから血性排液が認められ、一日で合計1,270mlもありました。

医師は、父から継続的な血液性排液が認められること、血液検査の結果や臨床所見により、肝部分切除術及び胆のう摘出術の合併症として、術後出血を来し、これに起因して腎不全の状態にあり、直ちに再開腹止血術を施す必要があると判断しました。
なお、手術後一度も腹部エコー検査を実施しませんでした。

医師は、開腹後、腹腔内に凝血塊を認めたため、これを除去した後、出血部位を確認したところ、前回の手術時に出血した部位と大体同じ箇所である胆のう底部を剥離した肝床部の肝被膜から動脈性の出血が生じているほか、そこから数cm離れた肝被膜の破れた部位からウージングが生じていることが判明しました。

その後、父には、止血や腎不全の治療が行われましたが、数日後には敗血症を発症し、これを原因としてDICを発症した後、亡くなりました。

質問

医師には、手術中に肝臓や胆のうから出血していたのですから、手術後に完全に止血されているか検査等を実施すべきであったと思います。
これを怠った医師や病院には責任はないのですか?

説明

【治療法など】

●PEIT

PEITとは、肝癌に対する治療方法の一つで、腫瘍をエコー画像で見ながら、エタノールを腫瘍に注入し、癌病巣を凝固させる非外科的治療です。
PEITは、腫瘍径が3cm以下、腫瘍数が3個以下で、腫瘍全体がエコーで描出できる場合に、適応があるとするのが一般です。

PEITは、肝表面に存在する腫瘍に対して行うと、エタノールが腹腔内に漏出し、腹膜炎を起こすおそれがあるとの見解もありますが、安全に施行可能とする見解も存在します。

●肝切除

肝癌での肝切除術には、その切除範囲に応じて、葉切除、区域切除、亜区域切除、部分切除、核手術などに分類されます。なお、肝部分切除術は、腫瘍及びその周辺部分を切除するものです。
肝切除術の適応は、腫瘍条件と肝機能条件との対比で決定され、肝予備能の範囲内で腫瘍が切除可能であれば、肝切除術の適応が肯定されます。

腹水、肝性脳症の有無のほか、検査数値としては、ICG15分停滞率、血清アルブミン、総ビリルビンに加え、血液凝固系の検査数値としてプロトロンビン活性、血液凝固系血小板数等が、肝機能の程度を計る指標とされている。

肝切除術を行うに当たっては、術野を広くし、肝切除の手技を行いやすくすること、高率で発生する肝癌再発時に行われるTAE、TAIといった治療に合併する胆のう炎を予防することなどの理由で、胆のうを併せて摘出するのが一般的です。

●術後出血の兆候

術後出血の徴候となる所見としては、ドレーンからの血性排液のほか、血圧低下、頻脈、尿量減少など循環血液量の減少を示すバイタルサインの変化があります

術後出血が疑われた場合には、バイタルサインを経時的に測定するほか、腹部エコー検査、経時的な血液検査(術後出血が生じている場合、ヘモグロビン値、へマトクリット、赤血球数が減少する。)、ドレーン排液中のへモグロビン値・へマトクリット値測定などを行い、術後出血の有無及び量を確認するとともに、保存的治療で対応できるか、再開腹止血術の必要があるかを判断することになります。

【大阪地裁の判断】

手術後に血圧低下、頻脈、尿量減少といった循環液量の減少を示す所見があったこと、CVPも低下していたこと、同月19日午前3時には血圧が明らかに低下していたことからすれば、同日午前3時の時点では腹腔内出血を示唆する所見が存在し、肝硬変で出血傾向のある患者であるため、胆のう摘出術に術後出血を合併する可能牲が正常肝と比べて高かったこと、胆のう摘出術実施の際、胆のう底部の剥離部位から相当量の出血が生じており、止血にも苦労し時間を要したことなどの事情からすれば、被告病院医師としては、術後出血の発生に対しては、慎重な観察を行うべきであったこと、血圧が明らかな再低下をみせた時点では、術後出血が生じている可能性を念頭に置いた上、腹部エコー検査、血液検査等を実施し、術後出血の有無及び量を確認するとともに、これが生じている場合には保存的な治療で対応できるか、再開腹止血術を行う必要があるかを判断し、再開腹止血術が必要であるならば、直ちにこれを施行すべき注意義務があったというべきであると判断しました。

そして、医師は、術後出血を疑わせるに足るバイタルサインの変化がありながら、これを全く疑うことなく、腹部エコー検査やドレーンの洗浄を行わず、また、血液検査を同日朝まで行わなかった上、手術終了時に濃厚赤血球液を3単位投与されていながら、ヘモグロビン値、ヘマトクリット、赤血球数が、同手術前と比べて減少しているという術後出血を疑うべき血液検査結果が判明してもなお、術後出血を疑わず、ドレーンから血性の排液が断続的に生じるようになるまで、術後出血が生じていること及び再開腹止血術が必要であることを判断することができず、再開腹止血術の開始を、遅延させたものであるとして、医師に術後出血の徴候となる所見を看過し、再開腹止血術などの術後出血に対する適切な対応を直ちにしなかった過失があるというべきであるとしました。

また、再開腹止血術を早期に開始しておれば、救命することができたであろう高度の蓋然性が認められるとして、約3,755万円の損害賠償を命じました。

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