医療過誤
医療過誤

救急病院への搬送義務

  • 帝王切開術後の救急病院への搬送が遅れたことの過失
  • 東京地裁平成15年10月9日判決
  • 2億1,721万251円の支払いを命じた事例

ケース

【術後の経過】

妻は、6月6日午後12時10分、帝王切開術を受け、男の子を出産しました。

妻は、帝王切開術の直後から、持続的に、めまい、気分不快、体熱感、軽度の呼吸苦等を訴える中、午後3時5分からは、意識がやや不明瞭となり、脈拍も高まっていき、午後4時には脈拍が140回/分と更に上昇し、血流量の減少が疑われる状況にありました。

A医師は、午後4時、B医師に対して、妻を緊急病院への搬送を手配するように指示しましたが、B医師は、搬送の手配は血液検査と腹部エコー検査を行ってからにするように指示しました。

そして、救急病院への搬送手配は、午後4時40分になってから行われ、実際に医療センターに搬送を依頼したのは午後5時10分で、医療センターに到着したのは午後5時50分になっていました。

【医療センターでの治療】

妻が医療センターに到着したときには、高度出血性ショックの状態にありました。

医療センターの医師は、触診と腹部エコー検査を行った後、開腹術を行いました。
妻の子宮切開創から膀胱にかけて巨大な血腫がありました。
医療センターの医師は、妻の血腫を除去し、子宮切開創の止血を試みましたが、これが困難であったため、子宮を全摘出しました。

妻は、この間、5,970gもの出血をともなっていました。

【現在の症状】

その後、妻の意識が回復することはありませんでした。
妻は、全脳虚血後の遷延性意識障害と、低酸素性脳症と診断され、現在では意識が回復する見込みもありません。

質問

帝王切開術を受けた直後から、妻には、腹腔内出血を疑わせる症状が現れていました。
また、午後4時ころには、脈拍も異常なほど上昇しており、腹腔内出血を疑うに十分な症状がありました。
それにも関わらず即座に緊急病院に搬送せず、結果として全脳虚血後の遷延性意識障害となりました。

妻を緊急病院に搬送しなかった医師に責任はないのですか。

説明

【裁判所の判断】

裁判所は以下のとおり判断しました。

帝王切開術の直後から、持続的に、めまい、気分不快、体熱感、軽度の呼吸苦等があり、これらの症状は腹腔内出血を疑わせるものであったということができる。
その上、午後4時には脈拍が140回/分と更に上昇したことも考え併せると、遅くとも午後4時ころの時点で、医師らは、患者の腹腔内出血を疑って、これに対する適切な措置をとるべきであった。

ところで、患者に腹腔内出血が生じた場合、医院では、医療センターで患者に対して行われたような手術を行うことはできず、そのような手術も行うことのできる救急病院へ搬送するほかに適切な措置がなかった。

そうすると、医師は、遅くとも午後4時ころの時点において、患者の救急病院への搬送の手配を始めるべきであった。

そして、本件障害が本件帝王切開術の術創からの出血に起因する全脳虚血ないし低酸素性脳症によって生じたものであること、にもかかわらず、医師は、午後4時40分ころに至ってようやく救急病院への搬送の手配を始めたのであって、このように手配が遅れたことについて過失があるというべきである。

また、本件帝王切開術が行われた直後から徐々に患者の腹腔内出血が進行していったこと、午後4時ころの時点において、患者の救急病院への搬送の手配が始められていたならば、本件において実際に医療センターで試験開腹術が行われたよりも早い段階で手術を行って止血の処置をとることができ、そのような処置がとられた場合には、患者が全脳虚血ないし低酸素性脳症に陥ることはなく、ひいては本件障害を負うことはなかった蓋然性が高いと認められるとして医師の過失と低酸素性脳症との因果関係を認めました。

以上を前提に、裁判所は、2億1,721万251円の支払いを命じました。

ページトップへ戻る

〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目11番22号
阪神神明ビル 2F

  • JR大阪駅より徒歩11分
  • JR北新地11-41番出口より徒歩8分
  • 地下鉄東梅田7番出口より徒歩10分
  • 地下鉄淀屋橋1番出口より徒歩10分
  • 地下鉄南森町2番出口より徒歩10分
  • JR新大阪駅より車10分