医療過誤
医療過誤

治療・経過観察に関する注意義務

  • 脳梗塞患者に対する治療・経過観察に関する注意義務違反
  • 大阪地裁平成16年4月28日判決の事例を参考
  • 請求棄却の事例

ケース

【入院】

父は、1月20日、軽度の意識障害が認められ神経内科に脳梗塞のため入院しました。なお、父は、スロンノン(抗凝固剤)の点滴投与等を受けていました。

【脳梗塞の治療】

1月23日の父の様子は、話をしている途中で寝てしまうような傾眠傾向がありましたが、27日以降にはパナルジン(抗凝固剤)の点滴を受け、29日、30日には傾眠傾向は改善しました。

ただ、1月29日のMRI、MRA検査で、父には左椎骨脳底動脈の狭窄化が見られ(左椎骨脳底動脈血栓症)、脳幹部の左橋の脳梗塞は拡大し、右橋にも小梗塞が認められました。
そして、2月1日、5日にも傾眠傾向が認められ、父の様子は、症状がよくなったり、悪くなったりを繰り返すような状態でした。

父は、2月7日午前9時前ころ、言葉を発することができる状態となり、私と話をすることができていたのですが、午後5時ころに再度、病室を訪れたとき、父は、片目を開けて大きないびきをかいて寝ていました。

そこで、看護師を呼んで父の様子を見てもらったのですが、看護師はいつもと変化がないとして、特別に処置を行ってくれることはありませんでした。

【肺塞栓の発症】

2月8日午前6時15分ころ、看護師が見回りのため父の部屋を訪れたところ、父は、呼びかけても、痰の吸引をしても反応せず、頻呼吸で、眼球が上転して白目をむいており、血圧は拡張期182、収縮期100で、39.5度の発熱が認められたそうです。

そこで、医師が診断したところ、父は呼吸困難な状態で、両肺野で吸気時の喘鳴が聞こえる状態であったたため、酸素吸入を行いました。そして、医師は、父が肺塞栓である可能性が高いと判断し、血液検査を実施して肺塞栓であることの確信を得て、ヘパリンの投与を行ったそうです。

父は、2月8日以後、言葉を発することができなくなり、2月13日、頭部MRI検査で、新たに橋延髄移行部梗塞、左の延髄梗塞が認められる状態でした。
なお、父の呼吸状態については、3月16日、酸素投与中止後の血中酸素飽和度が98パーセントから99パーセントまで程度に回復した状態となっていましたが、父は、脳梗塞を原因として、肺炎を発症するなどして、3月24日に亡なりました。

質問

父は、2月7日に大きないびきをかいて、左眼を半開きにしており、呼びかけても反応しなかったのですから、看護師が発見した段階で即座に抗凝固薬であるヘパリンを投与してもらっていれば、肺塞栓にならずに済んだと思うのです。
ヘパリンを投与しなかった医師や病院に責任はないのですか。

今回の件で医師に責任はないのですか。

説明

【症状】

脳内の椎骨脳底動脈に血栓がつまりつつある病態を椎骨脳底動脈血栓症といい、同血栓が完全につまってしまうと脳底動脈閉塞となります。

脳底動脈閉塞は、脳底動脈が閉塞し、脳幹部を中心に、小脳、後頭葉、間脳などに局限性ないし散在性に梗塞を生じるものです。この脳底動脈閉塞は、脳梗塞の中では最も重症で、急死することもあります。

肺塞栓症は、肺の血管に血栓が生じるもので、突然の呼吸困難、胸痛、ショックなどで発症します。動脈血液ガス分析で、低炭酸ガス血症を伴う低酸素血症が特徴とされ、確定診断には、肺換気・血流スキャン検査又は肺動脈造影検査が必要となります。そして、肺塞栓症では、ヘパリンを投与すること肺の血管にできた血栓を取除く治療を行います。

【裁判所の判断】

肺塞栓症は、呼吸困難が生じる上、症状が徐々に進むというものではなく、急激に生じるものです。
そして、2月7日の夜の時点では呼吸困難は生じておらず、翌8日午前6時15分に呼吸困難が生じている状態で発見されています。ですから、2月7日の時点では脳梗塞(脳底動脈塞栓症)の症状があったとしても、肺塞栓症を発症しているとは認められません。

また、肺塞栓症と脳梗塞(脳底動脈血栓症)は原因がことなり、相互に関連するものではありませんので、肺塞栓症を予見すべきであったとはいえません。

さらに、看護師が、お父さんの異常を発見した2月8日午前6時15分ころの時点では、肺塞栓症であると診断することはでず、ヘパリンは、血液を固まりにくくし、副作用として出血傾向があることからすれば、医師がヘパリンを投与するに至るまで、お父さんの状態を診察し、血液ガス分析検査を行うなどするまで一定時間を経過したとしても、ヘパリンの投与を判断するために要する時間を逸脱していない限り、医師の医療行為として不適切であったということはできません。

そして、医師は、看護師から呼び出しを受けて直ちにDの全身状態について診察をし、呼吸困難等の臨床症状から肺塞栓症等を疑ったが、肺塞栓症であるかについて判断をするため、血液ガス分析検査を行い、同検査で低炭酸ガス血症を認め、肺塞栓症と矛盾しなかったことから、肺塞栓症の可能性を考えて、2月8日午前7時30分ころには、ヘパリンの投与を開始していますので、これをもって不適切な医療行為あるいは過失があったとも認めることはできません。

また、看護師が発見した段階でヘパリンを投与しなかったことと、お父さんの死との間には因果関係が認められません。

以上の理由で患者側の請求は認められませんでした。

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