- 胃内の義歯を取出す際に誤って食道壁に食い込ませたことによる開腹手術実施の説明義務
- 東京地裁平成14年4月26日判決
- 113万円の支払いを命じた事例
ケース
【医師による説明】
私は、4月18日、夕食中に上顎左部分の義歯を飲み込んでしまいました。
私は、病院に行かずに放置していたところ、4月20日の午後から胃に不快感を感じるようになりました。
私は、4月21日午前中に病院でレントゲンをとってもらい、義歯が胃内にあることが確認できました。
医師は、私に対して、「内視鏡で摘出してみましょう。」と言っただけで、内視鏡による摘出を行うことになりました。
なお、このとき医師は、自然排泄を待つことの危険性、胃にある義歯を取り除くには、内視鏡的処置と開腹手術の2つの方法があること、内視鏡的処置で取り除くことができない場合には開腹手術になること、義歯が胃壁ないし食道壁に食い込んだ場合、緊急の開腹手術が必要になって、入院しなければならないことなど全く説明しませんでした。
【摘出術】
医師は、当初異物鉗子を利用し、その後スネアを利用して内視鏡的処置を繰り返し行いました。
ところが、医師は、義歯を摘出することができず、スネアに義歯を引っ掛けて義歯を胃から食道に引いてくる際に、胃と食道の接合部分の食道壁に義歯のブリッジを食い込ませてしまいました。
そこで、医師は、緊急開腹手術を実施し、義歯、スネア、ワイヤを摘出しました。
質問
私は、開腹手術を行う可能性があることを一切告げられず、内視鏡的処置により義歯の摘出術が上手くいかずに、開腹手術を行われました。
医師が患者に何らの説明を行わず、開腹手術を行うことなど決して許されないと思います。
このような医師に責任はないのですか。
説明
【裁判所の判断】
裁判所は、患者の疾患の治療のために手術又は処置を実施するに当たっては、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術又は処置の内容、手術又は処置に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて、医師に説明すべき義務があると判断しました。
そして、本件では、医師が、内視鏡的処置を行うに当たり、患者が飲み込んだ義歯の大きさ、形状からして、自然排泄を待っていては危険性があること、胃にある義歯を取り除くには、内視鏡的処置と開腹手術の2つの方法があること、内視鏡的処置で取り除くことができない場合、開腹手術になること、内視鏡的処置を行う場合、義歯が胃壁ないし食道壁に引っかかる可能性があり、その場合、緊急の開腹手術が必要になって、入院しなければならないことを説明すべきであったといわなければならないとし、これらの説明を行っていない医師に説明義務違反があることを認めました。
そして、裁判所は、患者に対し113万円の損害賠償を命じました。