医療過誤

医療過誤

慢性閉塞病変でのPTCAミス

  • 慢性閉塞病変の患者に対するPTCA実施の際のミス
  • 東京地裁平成17年4月27日判決の事例
  • 1,900万円の支払いをじた事例

ケース

【心筋梗塞の発見】

父は、12月26日、上腹部痛を訴え、胃腸科外科を受診しました。そして、翌年1月7日にも同じ病院で受診しましたが、症状はよくならず、9日に入院して検査を受けたところ、前壁に陳旧性心筋梗塞、下壁に急性心筋梗塞を発症していることがわかりました。

なお、検査の結果、左前下行枝(LAD)は完全閉塞、右冠動脈(RCA)は99%亜閉塞、左回旋枝(CX)は90%狭窄と認められ、冠動脈疾患三枝病変、陳旧性心筋梗塞であることがわかりました。

【PTCAの実施】

父は、右冠動脈に対して経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)を実施してもらい、ステントを留置するなどして、同部位の狭窄を改善してもらいました。父は、1月17日、左回旋枝のPTCAを実施してもらい、狭窄率が90%から10%へと改善しました。 なお、父は、左前下行枝に対するCABGの実施については消極的であり、22日に退院し、胃腸科外科への外来通院を再開しました。

【左前下行枝に対するPTCAの実施】

父は、7月ころ、PTCAを実施した部位の確認等のため検査を受けたところ、以前PTCAを実施した右冠動脈及び左回旋枝については再狭窄が認められなかったが、左前下行枝はやはり完全閉塞の状態でした。

私たちは、医師のアドバイスを踏まえて話合い8月21日に左前下行枝に対するPTCAを実施してもらうことになりました。

医師の説明では、閉塞部である左前下行枝にガイドワイヤーを通過させようとしたところ、対角枝方向へずれて目的部位を捉えることができず、1度ワイヤーを抜いて進め直したところ、左前下行枝の方向へワイヤーが進んだものの、今度は内膜下(偽腔)に入ったそうです。

さらに、ワイヤーを進め直し、目的の部位に到達させようと試みましたが、内膜下に入っては抜くということを繰り返し、また、左前下行枝に入ってもワイヤーの先が対角枝方向に向くなどして、結局左前下行枝の真腔を捉えることはできず、当初造影されていた左前下行枝の側副血行路が消失し、ワイヤーの先端位置を特定するのが困難な状況になっていたそうです。

その後、別の医師に交代したそうですが、その後も、側副血行路は消失したままであったそうです。そして、別の医師は、ガイドワイヤーを進め、それが心尖部まで回り込むというところまで進行させたそうです。

このとき、その医師は、ガイドワイヤーが対角枝に入っている可能性や、途中で偽腔に入っている可能性もあると考えたようですが、画像や手先の感触等を総合して、おそらく左前下行枝内の真腔にあるだろうと判断し、閉塞部近位部を最小径である1.5mmのバルーンで拡張したそうです。

ところが、ガイドワイヤーは対角枝方向の偽腔に入っていた可能性が高く、閉塞部をバルーンで拡張したため、冠動脈を穿孔させ、対角枝から出血が生じました。医師は、穿孔部付近をバルーンにより拡張するという方法で止血を開始し、一旦は止血が確認されたそうです。ところが、その直後、父は、胸部痛や心窩部痛を訴え、血圧が低下し徐脈が発現して、心室細動を来たし、呼吸停止となりました。そして、父は、その4時間後に死亡しました。

質問

医師は、ガイドワイヤーが左前下行枝の真腔を捉えていることが確認できていないにもかかわらず、バルーンで拡張し、これにより冠動脈に傷をつけてしまい父が亡くなってしまいました。
このような医師に責任はないのでしょうか。

解説

【心臓の病変】

主要な突然死の重要疾患は、虚血性心疾患と心筋症です。
最終的な病因としては、悪性の頻脈性不整脈、特に心室細動、心室頻脈、そして徐脈性不整脈、心停止、EMD(electro-mechanical disso-ciation)が重要です。これらが発生することにより、急速な循環不全に陥ることになります。

心室細動とは、心筋細胞が全く無秩序に随所で極めて速い周期で繰り返し興奮し、心室の部分的収縮が持続的に反復する状態をいいます。この結果、心室は、全体としての収縮が生じず、有効な心駆血が起こらなくなり、脳をはじめとする全身の血流が停止し、脈拍も振れなくなる状態になることです。
数分以内に洞調律に回復しないとそのまま死亡するか、脳、腎臓等に重大なダメージを残すことになります。

心室細動の原因としては、様々なものがありますが、虚血性心疾患等器質的心疾患に、虚血、心機能の低下、交感神経活性の亢進等の誘引要素が生じることにより発症します。

心筋梗塞を生ずる長い危険な虚血の前に短時間虚血・再灌流を行うと、心筋細胞が長い虚血に対して強くなります。この現象は、心筋細胞それ自身の変化に由来し、プレコンディショニングといわれます。

【PTCA】

PTCAは、経皮的に体外からバルーンカテーテルを挿入し、冠動脈内の狭窄をバルーンを膨らませた圧で拡張するというものです。ガイディングカテーテルを用いて適切な冠動脈口にカテーテルを挿入し、バルーン付きカテーテルを遠位の冠動脈に挿入し、バルーンを狭窄内の位置に合わせて、血管拡張のために膨らませます。

ガイドワイヤーは、冠動脈内にバルーンより先行して挿入されるもので、これによりカテーテルが体内を進んでいきます。

PTCAの合併症として、冠動脈穿孔や心タンポナーデがあります。
冠動脈穿孔の原因としては、ガイドワイヤーによる穿孔、バルーンカテーテルによる穿孔、過度な拡張による冠破裂等があります。

また、心タンポナーデは、冠動脈の出血により、急速に心のう内に血液が流れ込んで起きます。処置としては、心のう穿刺・ドレナージを行ったり、冠動脈の穿孔・破裂部位を自己灌流バルーンで長時間拡張したり、ヘパリンの作用を中和したりする方法、これらを併用する方法があります。

バルーンによる穿孔は、冠動脈内のバルーン拡張により止血し得ることが多いとされ、近位部を低圧で長時間(10分間)の拡張を繰り返し、止血したところ、心タンポナーデは起こさず、緊急手術も行わずに済んだという例があります。

【PTCAの注意点】

閉塞部の硬い完全閉塞病変では、しばしばガイドワイヤーが内膜下に入り込んでしまい、そのまま末梢まで通過したかに見えることがあります。また、閉塞部は通過したが、その後に側枝に入ってしまっていることもあります。
このようなときには対側の冠動脈造影を行い、側副血行を観察することにより容易に判定することができます。

ワイヤーの操作において、「偽腔に入る」とは、ワイヤーが血管内にあるが、その真腔を捉えず、血管壁と真腔との間に入ることをいいます。
内膜下にワイヤーが入ることにより、真腔側に内膜が押し広げられ、その部分の真腔の血流が阻害された結果、側副血行路の血流にも影響を与え、その描出が困難となります。

閉塞部位にワイヤーを通す仕事は、基本的に盲目的な作業であるため、閉塞長が長いほど、ワイヤーが内膜下に入込んだり、血管外に出る危険性が増します。
また、病変が長いと言うことは、病変自体や病変の近傍に屈曲を持つことが多く、かつ瀰漫性の性質を持っているのでワイヤーの受け皿となる遠位部の血管も細いことが多いのです。

【裁判所の判断】

まず、出血の主原因については、ガイドワイヤーが目的としていた左前下行枝の真腔を捉えず、対角枝方向へ向かい、しかも偽腔に入っていたため、偽腔内においてバルーンを拡張した結果、冠動脈を裂いて出血を招いた可能性が高いものと認められるとしました。

そして、医師の過失については、PTCAにおいて、閉塞部位にワイヤーを通す作業は、血流と術者の感ずる手応えを頼りとする手探り的なものであり、ワイヤーが内膜下に入り込んだり血管外に穿通する危険性があること、そのため画像上多角的な検討が必要であることや術者の手先の感覚が重要であることはもちろんであるが、その他側副血行路等による末梢の情報が重要であること、仮にワイヤーが内膜下等に入り偽腔を形成すると、真腔が圧排されて次第に造影されなくなることなどが指摘されており、ワイヤーの正確な位置を確認すること及びその前提として側副血行路等の情報を豊富に獲得し、これに術者の感覚等を総合して慎重な判断が必要であることは疑いがないものというべきであるとし、医師が慎重な判断を行わなかったと判断しました。

そして、裁判所は、病院と医師に対し、約1,900万円の賠償を命じました。

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