医療過誤

医療過誤

急性心筋梗塞の見逃し

  • 急性心筋梗塞を見逃し、適切な治療措置を講じなかったことの注意義務
  • 東京地裁平成13年9月20日判決の事例を参考
  • 7,800万円の支払いを命じた事例

ケース

【経緯】

私の父は、製版業を営む有限会社の代表者を務めていました。
父は、9月29日午後3時前に、取引先の事務所で打ち合わせ中に嘔吐し、左肩部の激痛を訴え、取引先の方が救急車を呼んでくれたそうです。
そして、父は、9月29日午後3時30分ころ、救急車により二次救急病院に指定されている整形外科病院に搬送されまた。

父は、搬送先病院で、頚椎と左肩のX線検査を受けた後、痛み止め等の注射をしてもらい、飲み薬と座薬を受け取って乗用車で帰宅しました。
その後、父は、就寝したのですが、9月30日午前0時ころ、「うっ」という唸り声を上げて目を開き、意識を失ってしまいました。

私や母は、驚いて救急車を呼んで総合病院に父を搬送してもらい、緊急手術が行ってもらいましたが、午前1時46分に搬送先の病院で亡なりました。
搬送先の病院で死因を調べてもらったところ、父は、前壁中隔部の急性心筋梗塞で、心破裂により死亡したことが分かりました。

【整形外科医の説明】

私や母は、お昼に搬送された整形外科病院の医師が父の心筋梗塞を疑い、近くの総合病院に搬送してくれていたら、父は亡くならずに済んだのではないかと考え、整形外科病院を訪問し、当時の様子について説明を聞きました。

すると、救急隊からの連絡では、肩を痛がり、嘔吐したお父さんがいるという内容で、救急隊員は整形外科が相当と判断し、搬送されてきました。
また、私の父が肩関節周囲炎で通院加療中であり、その痛みが潜在的に存在したため、胸部痛や背部痛があったとしても、救急隊員に肩の痛みを訴えたと思われます。

病院に到着した後も、父が肩の痛みを訴えたため、石灰沈着性肩関節周囲炎を疑い、肩関節と頚椎のX線検査を行いました。 ところが、肩関節に関節周囲炎特有の拘縮がみられるものの、石灰沈着がみられなかったことから、肩関節周囲炎との判断をしました。
そして、肩関節周囲炎は、保存療法が原則であり、痛みが強い場合は入院加療が必要になるため、入院を勧めたが、同意を得られなかったので、関節注射、三角巾固定、投薬等の肩関節周囲炎に対する治療を行って、帰宅させましたという説明がありました。

質問

父を診断した整形外科医は、父が肩関節周囲炎で通院加療中で肩の痛みを訴えていたことや、循環器内科の専門医でもありませんので、父が亡くなったことになんらの責任もないのでしょうか。

説明

【心筋梗塞の症状】

前胸部にかきむしられるような激しい痛み、又は締め付けられるような痛みが安静時や軽労作時に突然出現します。また、背部や心窩部に痛みを訴えることもあります。
心臓の下壁梗塞では、悪心・嘔吐が主症状のことがあり、老人や糖尿病お父さんでは、呼吸困難をきたすこともあります。
その他、冷汗、顔面蒼白、四肢冷感、悪心、嘔吐などのショック症状を伴うことが多く、精神的に不安状態に陥ることが多く、左心機能低下による呼吸困難などの心不全症状も伴うことがあります。

【急性心筋梗塞の診断】

大部分の急性心筋梗塞は自覚症状、心電図所見(不整脈、ST上昇等)、血液検査結果(心筋逸脱酵素上昇等)から容易に診断することができます。
以上の所見はすべてそろっていなくても、2つあれば心筋梗塞と考えてよいとされています。
中には診断の判定が困難な場合もありますが、疑いが強い場合には集中治療室に収容することが望ましいとされています。

【急性心筋梗塞の治療】

急性心筋梗塞又はその疑いがある場合には、集中治療室に収容する必要があります。そして、移送の前に、血管確保、酸素吸入、鎮痛剤・鎮静剤投与等を行います。ただし、不整脈、心不全、ショックを伴っている場合には、これに対する基本的治療を行った後、呼吸状態、血圧、脈拍などのバイタルサインが比較的安定するまで移送を控えます。
急性心筋梗塞に対しては、血栓溶解薬や経皮的冠動脈形成術等による再灌流療法などが行われます。

【東京地裁の判断】

お父さんは、突発的な激痛を発症して整形外科病院に救急車で搬入されたものであり、お父さんの症状が消失しないまま帰宅させるのであれば、生命に関わるような重大な疾患ではないと断定できるだけの十分な検査をしたうえで、確実な診断を下すべき義務を負っていたものというべきであるとしました。

また、急性心筋梗塞のお父さんが肩部痛と感じて整形外科を受診することはまれではなく、さらに、お父さんが示していた左肩から左上肢に放散する激痛という症状は、急性心筋梗塞に比較的典型的な症状であることから考えると、検査結果からお父さんの症状に該当する整形外科の病気であるとの診断がつかない以上、整形外科の病気以外の病気、すなわち、急性心筋梗塞の可能性も疑ってみるべきであり、少なくとも心電図検査は可能であったのであるから、心電図検査を実施すべきであったとしています。

そして、心電図検査を実施していれば、急性心筋梗塞であることが判明したものと推認され、お父さんを集中治療室のある病院に移送していれば、適切な治療を施すことができ、8割から9割の確率で死を免れた可能性があると認められるとしました。

以上より、東京地裁は、整形外科医の過失を認めたのです。

さらに、東京地裁は、お父さんに適切な治療を行っていれば、死を免れた可能性が極めて高く、お父さんが意識を喪失したのは、整形外科医による診察の約8時間後であることを考慮すると、整形外科医の誤診とお父さんの死亡との間には相当因果関係も認められるので、整形外科病院に対し、損害賠償義務が認めれるとして総額約7,800万円の損害賠償を命じました。

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