医療過誤

医療過誤

心タンポナーデ発症後の治療に関する過失

  • カテーテルの先端を右心房内、心嚢内に刺出させた過失
  • 大阪地裁平成13年12月17日判決参考
  • 6,248万円の支払いを命じた事例

ケース

【検査入院】

私の父は、2月1日、背部に放散する心窩部痛を訴え、検査入院しました。
レントゲン検査、心電図検査、血液検査、尿検査等を行ってもらいましたが、著しい異常は認められませんでした。

翌日、腹部単純CT、腹部エコー、胃内視鏡検査等を実施してもらったところ、胃内視鏡検査で山田?型ポリープ様隆起性病変3か所及びkissing潰瘍が認められ、CTやエコーでは膵頭部軽度腫大が認めらただけで、痛みの原因は判明しませんでした。

父は、食事を行ったときに疼痛を訴えていましたので、潰瘍食及び胃酸の分泌を抑制するH2ブロッカーや膵炎の治療薬であるプロビトールによる薬物による治療を行ってもらいましたが、それでも改善されませんでした。

【カテーテルの挿入】

医師から、疼痛が緩和するまで絶食治療を行うことを提案され、絶食を行うことになりました。
そして、絶食中に栄養補給を行うため、鎖骨下静脈からの中心静脈栄養(IVH)が実施されることになり、2月3日、高カロリー輸液のルートを確保するため、左鎖骨下部分より輸液点滴のカテーテルを上大静脈に挿入されました。

カテーテルの針を経皮的に刺す時、父が胸痛を訴えたため、いったんカテーテルを抜き取り、その後もうまく入らず、4回目に穿刺したときにようやく抵抗なくスムーズに挿入されました。

なお、カテーテルは20cm挿入され、カテーテルからの血液の逆流を確認した上、レントゲン写真を撮影してカテーテルの先端位置を確認したところ、先端は上大静脈の辺りにあったことから、適正位置にあると判断したそうです。

父の血圧は、カテーテル挿入後急上昇しましたが、医師は父にニフェラート(降圧剤)1capを舌下させただけでした。

父は、2月5日午前10時ころ、体温が37.7度に上昇し、看護婦に対して右胸部に少し圧迫されるような痛みを訴えました。また、IVHの点滴の滴下が遅れ、同日午後0時に予定されていた点滴の更新が午後1時50分に行われ、父はこのときも右胸部の不快感、疼痛、圧迫感のようなものを訴えていました。

2月5日午後1時55分ころ、父からナースコールがあって看護婦が病室を訪れたところ、父は、顔色及び口唇色が不良で、冷汗があり、臥位にて気分不良を訴え、やや呼吸は深大気味で、体温は35.2度、血圧は聴診測定が不能であり、触診で50mmHgであり、心拍数は10の状態で、血糖値は123mg/dlで、2回嘔吐し、右胸部痛の痛みを訴えていました。

午後2時45分ころには、父の脈拍は触知されなくなり、午後3時ころ、血圧は40から50mmHg、心拍数は毎分100から110となり、呼吸苦、胸痛、腹痛が持続し、体動があり、脈拍は微弱でした。午後3時5分ころ、IVHのルートを使って生理食塩水100mlとドパミン(昇圧剤)2Aの輸液を開始しましたが、父は、口唇色及び顔色が蒼白となりました。
さらに、医師は、酸素吸入を開始し、バソレーターテープ(狭心症治療薬)1枚を貼用し、午後3時10分ころには、生理食塩水100mlとネオプラミール1A、アルタット(抗潰瘍薬)1Aの輸液を開始しました。

午後3時20分、医師は、父にソセゴン(鎮痛剤)を筋注しましたが、父は、血圧触知不能、酸素飽和度測定不可となり、心拍数は毎分100から110で、腹痛、便失禁、末梢冷感があり、顔色及び口唇色は蒼白の状態でした。

午後3時40分ころ、父は、疼痛、呼吸苦があり、顔面チアノーゼが出現し、全身硬直があり、眼球挙上、意識消失、呼吸停止となり、午後3時50分に亡くなりました。

【解剖結果】

父が亡くなった後、父の死因を特定するため解剖が行われましたが、その結果、カテーテルは、最終的には、0.05×0.15cmの大きさの創口を形成して右心房内で右心耳心筋肉柱に刺入し、約5mmの厚さの心筋を貫いて心嚢内に刺出していました。

説明

【心タンポナーデ】

心タンポナーデの臨床症状は、急激に発症するチアノーゼ、顔面、頸部の静脈怒張、嘔気、嘔吐、呼吸困難、心窩部又は胸骨後部の痛み、それらの後に不穏状態、錯乱、昏睡を来し、その後1時間以内に頻脈、低血圧、奇脈を来し、放置すれば4時間以内に心停止を来すとされています。

心タンポナーデが疑われた場合には、直ちに心エコーを実施して心嚢貯留液の有無の確認を行い、心タンポナーデの治療としては、カテーテルからの輸液を中止して更なる心嚢液の増加を防ぐとともに、カテーテルより貯留液の吸引を試み、その後カテーテルを抜去し、必要ならば心嚢穿刺あるいは開胸ドレナージを行うこととされています。

【大阪地裁の判断】

判決では、本件でカテーテルの先端が父の右心房内に挿入された原因が、カテーテルが先端部より約20cm挿入されたところで左鎖骨下穿刺部で固定されており、留置位置が深いことにあるとされ、カテーテルが長く挿入されたまま固定されたのは、医師が、レントゲン写真でカテーテルの先端位置を確認したものの、その際にカテーテルが父の体内でループを形成しているのを見落とし、カテーテルの先端が適正位置にあると誤って判断し、カテーテルの長さを調節しなかったことによるとされました。

そして、医師としては、カテーテルの先端が右心房内に挿入される蓋然性の高い位置にカテーテルを固定するような事態を回避すべきであったにもかかわらず、レントゲン写真の十分な確認を怠りカテーテルがループを形成しているのを見落としたため、カテーテルを刺入口より20cmの長さで挿入し、カテーテルの先端が右心房内に挿入される蓋然性の高い位置で固定したものであるから、医師によるIVHの施行には、過失があったというべきであるとされました。

また、カテーテルの先端が右心耳心筋肉柱に刺入し、心筋を貫いて心嚢内に刺出した状態で輸液が継続されため、心嚢内に約400mlの輸液が貯まり、心嚢水腫による心タンポナーデを発症したものであるとの認定を前提に、心タンポナーデの各症状が現れているにもかかわらず、心タンポナーデを全く疑わず、心エコーによる検査を行うこともなく、かえって、IVHを全開にするという心タンポナーデを増悪させる処置を行っており、心タンポナーデの発症後、適切な治療をすべき義務があるのにこれを怠った過失があるとされました。

そして、これらの過失が原因でお父さんが亡くなったと判断し、医師に約6,248万円の賠償を命じました。

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