本稿では、前稿に引き続き、新聞紙上を頻繁に賑わしているM&Aが、一体、どのような目的で行われているのかを説明したいと思います。
これまで述べてきたとおり一口にM&Aが行われる目的と言いましても、そこには実に様々な目的が存在します。
大きく分けますと、大企業同士で行われるものと中小企業が対象となるものとの間では、その目的が自ずと異なることとなります。
今回は、大企業に限った話ではありませんが、ある企業の事業を取得した経緯として、民事再生手続がキーワードとなるケースが増えている点を取り上げたいと思います。
民事再生手続とは、平成12年より施行されている民事再生法に基づいて行われる再建型の倒産手続きであり、過大な債務を支払可能な金額まで減額し、これを最長10年間で分割して支払うという手続です。
民事再生手続では、このような債権カット並びに長期分割弁済と言った内容を定めた再生計画を債権者の多数決により決議し、これに基づき、再生会社を再生することになります。
一方、民事再生手続は、当該「企業」の再生ではなく「事業」の再生にもよく用いられるようになり、予め優良な事業部門についてスポンサーを選定し、民事再生手続において当該事業部門のみを譲渡して再生し、本体を清算するといったプレパッケージ型の手続や100%減資を行った上でスポンサー企業が資本投入を行う等の方法でM&Aが行わることも増えています。
過去にも、三越伊勢丹ホールディングスが、その子会社と民事再生手続中の丸井今井との間で、札幌と函館の事業を譲り受ける旨の事業譲渡契約を締結したことが発表されました。
三越伊勢丹ホールディングスは、民事再生手続において、丸井今井からのスポンサーとなり、具体的な協議を進めてきたとのことですが、時間の経過による事業の毀損を最小限に抑えるため、早期に事業譲渡を実施することが必要であると判断して、早期の事業譲渡契約に至ったようです。
このように、近時、再び倒産事件が増加傾向にある中、民事再生手続中の会社の事業を再生するためにM&Aが活用される場面も増えてくるものと思われます。
弁護士 久保陽一