知的財産
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具体的不登録事由

政策的に登録を認めない商標

商標法は、以下で説明する商標の登録も認めていません。
先に説明したものは、商標の本質的機能である識別力を有さないものとして、当然に登録が認められないもので、一般的不登録事由と言われています。
他方、以下で説明するものは、識別力を有するものの、種々の政策的理由により登録を認めないもので、具体的不登録事由と言われています。

国旗、菊花紋章等

まず、国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標の登録は認められません。

これらの商標は、一個人が独占し商標として使用することは国家、皇室、勲功者等の尊厳を害し好ましくないという理由から登録が認められないのです。

国旗、菊花紋章等が商標の一部を構成していても商標全体からみて国旗、菊花紋章と類似しなければ商標登録が認められます。

他方、商標の一部に国旗又は外国の国旗の図形を顕著に有するときは、国旗又は外国の国籍に類似するものとされます。

仮に類似していなくとも、国や外国の尊厳を害する商標については、後で説明する公の秩序・善良の風俗を害する商標として登録が認められません。

なお、国旗等と類似するか否かは専ら外観により判断することになります。
また、「勲章、褒章又は外国の国籍」は現在しているものに限られます。

さらに、「外国」とは、我が国が承認している国に限られず、未承認国をも含まれるとされています。

外国の紋章等

パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であって、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標についても、前記した国旗や外国の国旗と同様に登録が認められません。

登録が認められない理由、類似するか否かの判断等については、国旗の場合と同様です。

国際機関の標章等

国際連合その他の国際機関を表示する標章であって経済産業大臣がしているものと同一又は類似の商標についても、先の二つと同様の理由により登録が認められません。

現在まで経済産業大臣によって指定され、官報に告示されているものとして、国際連合の旗、UNESCO、EURATOM等があります。

赤十字等の紋章等

同一の理由により、赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律第1条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第158条第1項の特殊標章と同一又は類似の商標についても登録が認められません。

国際機関等の証明印等

日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であって、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用するものについては商標登録が認められない。

これらの標章については、全般的に登録ができないのではなく、指定商品・役務との関係で登録が認められないことになります。

他方で、国旗等と違って、特に品質、質保証機能が強いため、商品等の品質・質の誤認防止の見地から、商標法では「有する」と規定されており、その一部としてその標章をつかっている商標も登録が認められません。

国・地方公共団体の機関を示す標章等

国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標についても登録が認められません。

これらの商標を一個人に独占させることが、これらの権威を尊重するために好ましくないことから登録が認められません。

そして、公益保護見地から、当該団体から承諾を受けた場合でも登録が認められません。

これに該当する商標としては、都道府県、市町村、市バス、YMCA、オリンピック、JETRO、NHK、ボーイスカウト、大学等を表示する「著名」な標章等があります。

当然のことですが、これらの団体自身が使用するために商標登録出願するときは本号の適用はありません。

公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標

公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標についても登録がみとめられません。

商標法の「公序良俗を害するおそれがあるもの」は、他の産業財産権法のより範囲が広く解されています。

例えば、商標の構成自体が、きょう激、卑わい、差別的もしくは他人に深いな印象を与えるような文字又は図形である場合、および商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品等について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合があります。

そして、他の法律によってその使用が禁止されている商標があります。
株式会社でないのに商標中に株式会社という文字が含まれる場合がこれに該当します。

また、特定の国もしくは、その国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標も含まれます。日露戦争が行われていた当時、整腸薬について「征露丸」と商標の登録が拒絶された例があります。「征露」とはロシアを征伐するという意味があるという理由で国際信義に反すると判断されたのです。

他人の指名等

他人の肖像又は他人の指名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標についても登録は認められません。

この不登録事由は、人格権を尊重するために設けられたものです。

これに対し、この不登録事由を出所混同防止であり、現存するものに限られないという説も存在します。

しかし、「他人」の同意がある場合には当該規定の適用がないこと、この不登録事由の他に、他人の業務に係る商品または役務と混同を生ずるおそれがある商標が不登録事由とされていることから、この不登録事由は、専ら人格権を尊重するところにあると解すべきです。
ですから、ここで、「他人」とは、出願人以外の者をいい、現存するものに限られ、死者や相続人は含まれないと解することになります。

なお、その他人の承諾を得ている場合には、人格権を害することもありませんので、この不登録事由には該当しません。
この不当録事由に該当するか否かは、商標登録出願時と登録時の両方の時点で判断されます。

また、自己の氏名が偶然「他人」の氏名と一致する場合、当該「他人」の承諾を取る必要がありますが、当該「他人」の承諾を得たとしても、商品等の出所の混同・品質の誤認を生じる場合には、他人の業務に係る商品または役務と混同を生ずるおそれがある商標、あるいは商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標として登録が認められません。

さらに、「著名」の程度の判断には、商品又は役務との関係が考慮されます。

博覧会等の標章

政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であって特許庁長官が指定するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けたものが開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似の標章を有する商標についても登録が認められません。
この不登録事由の趣旨は、博覧会の賞の権威維持とともに、品質・質の誤認防止にあります。

ですから、その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものについては除かれます。

そして、博覧会の賞を受けた者がその賞を商標の一部に使用したものを登録する場合には、当該使用者が受賞の事実を立証する必要があります。

なお、一部使用に限定している理由は、複数の受賞者にその賞と同一又は類似の標章を商標として使用する機会を提供するためです。

また、「博覧会」には品評会も含まれます。
そして、「その賞を受けた者」には、その者の営業の承継人も含まれます。

需要者の間に広く認識されている商標

商標法は、他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものについても登録が認められません。

この不登録事由の趣旨は、出所混同を防止するとともに、一定の信用を蓄積した未登録周知商標の既得利益を保護するところにあります。

ですから、他人の周知商標には、未登録商標を含みますここでの周知商標は、最終消費者まで広く認識されている必要はなく、取引者の間で広く認識されていることで足りるとされています。

また、認識の程度は、全国的なものは必要なく、一地方で広く認識されている程度でよいとされています。なお、当該事由の判断時は、商標出願時と登録時の両方となります。

広島地裁福山支部昭和57年9月30日「DCC事件」判決では、以下のとおり判示されており、裁判例上でも前記した基準が採用されています。

「全国的に流通する日常使用の一般的商品について、商標法4条1項10号が規定する「需要者の間に広く認識されている商標」といえるためには、・・・・本件では、商標登録出願の時において、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきである。」

商標の使用により、「業務に係る商品等を表示するものとして需要者の間に広く認識される」程度の信用を形成した者は、不正競争防止法による保護を除き、積極的に他人の使用を差し止める等の権利はありませんが、商標法に基づき他人の商標登録を阻止することはできることになります。

この不登録事由に反して商標登録が認められても、周知商標の使用者は、一定の要件の下、当該周知商標の先使用権が認められることになります。

当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものについても商標登録は認められません。

これは、出所の混同防止の観点から、先願の他人の登録商標と同一・類似の商標であって、指定商品・役務も同一・類似である場合の登録を禁じたものです。

商標の類否判断は、商標の有する外観、呼称、観念の各判断要素が総合的に考察され、また、商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層、取引の実情を考慮しながら、需要者の通常有する注意力を基準に判断することになります。

他人の登録防護標章と同一の商標

他人の登録防護標章と同一の商標であって、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするものについても商標登録は認められません。

ここで、登録防護標章とは、登録商標の周辺を保護するための防護標章登録を受けている標章をいいます。
防護標章登録がなされたときは、他人のその標章の使用は商標権侵害とみなされますので、防護標章の及ぶ範囲である登録防護標章と同一の商標であって、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務については登録が認められないのです。

ここで注意しなければならないのが、登録防護標章は、商標とは異なり、同一の商標、同一の商品・役務についてのみ効力を有するので登録が認められないのも、同一の商標、同一の商品・役務に限られるという点です。

ただし、登録防護標章と類似する商標についても商品等の出所の混同を生じるおそれがあるときは、他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものとして拒絶されます。

また、防護標章は、先願を優先して登録する旨の規定の準用がないため、先願の商標登録出願があっても登録され、登録された防護標章は先願の商標登録を阻止することができます。
ですから、防護標章に対して先願の関係にあるものでも、登録は認められないことになります。

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