意匠法は、新規性を要求するともに意匠の創作が容易でことも登録要件としています。これは「創作非容易性の要件」と呼ばれています。
具体的には次のように規定されています。
「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、意匠登録を受けることができない。」
新規性を有する意匠であっても当業者が容易に創作することができる意匠に独占権を認めた場合、意匠権を乱発することになりデザインの自由度が狭くなってしまい、かえって意匠の創作が制限されることになります。
そこで、意匠法は、当業者が容易に創作できる意匠については登録を認めないと定めたのです。
創作が容易か否かの判断は、対比対象となる意匠との比較の問題です。
ところで、日本の意匠法が保護する意匠は具体的な物品に施された意匠を保護しますので、類似する意匠か否かの判断においては、比較する2つの意匠の物品としての同一性、あるいは類似性が問題となります。
この点は、項を改めて詳細に説明します。
他方、創作非容易性の判断は、当業者であれば容易に創作することができたか否かかが問題となっています。
ですから、創作が容易か否かを検討する際には、比較対象となる両意匠の物品が同一か類似するかということは問題にはなりません。
たとえ、物品が異なったとしても、ある物品に施された意匠から、出願した意匠が容易に創作できるというのであれば、それは創作容易な意匠ということになるのです。
では、創作容易な意匠とは具体的に、どのような意匠を指すのでしょうか。
特許庁では、創作容易な意匠の例として、置換の意匠、寄せ集めの意匠、配置の変更による意匠、構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による意匠、「ほとんどそのまま」表したにすぎない意匠、商慣習上の転用による意匠が挙げられています。
特許庁が列挙する創作容易な意匠の例をもう少し詳しく見てみることにします。
置換の意匠
「置換」とは、意匠の構成要素の一部を他の意匠に置換えることをいいます。
公知になっている意匠の特定の部分を、当業者にとってありふれた手法により他の公知の意匠に置換えただけの意匠が置換の意匠にあたることになります。
このような意匠は、特段の創作的要素が加えられない限り、登録を受けることができないのです。
寄せ集めの意匠
「寄せ集めの意匠」とは、複数の意匠を組み合わせて一の意匠を構成することをいいます。
複数の公知の意匠を、当業者にとってありふれた手法により寄せ集めたに過ぎない意匠がこれにあたることになります。
このような寄せ集めの意匠は、意匠を一つに組み合わせた点にある程度の創作性が認められない限り登録されないことになります。
配置の変更による意匠
公知の意匠の構成要素の配置を、当業者にとってありふれた手法により変更したに過ぎない意匠がこれにあたります。
これも配置を変更する点にある程度の創作性が認められない限り登録されることはありません。
構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による意匠
構成比率を変更した意匠とは、公知の意匠の全部又は一部の構成比率を当業者にとってありふれた手法により変更したに過ぎない意匠をいいます。
連続する単位の数の増減による意匠とは、公知の意匠の繰り返し連続する構成要素の単位の数を当業者にとってありふれた手法により増減させたに過ぎない意匠をいいます。
一般的にこれらの意匠には、変更を加えた点に創作性が認められない、あるいは創作が容易です。
ですから、これらの意匠についても変更を加えた点に、一定の創作性が認められない限り登録されることはないのです。
「ほとんどそのまま」表したにすぎない意匠
公知の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合をほとんどそのまま物品の形状、模様もしくは色彩又はこれらの結合に表したにすぎない意匠のことをいいます。
特許庁が挙げる例としては、ピーマンの形をした文鎮に関する意匠が挙げられています。
このような公知の形状を何らかの物品に表しただけのものは、登録されません。
商慣行上の転用による意匠
非類似の物品の間に、当業者にとって転用の慣行がある場合において、転用された意匠のことです。
例えば、電卓や自動車の形をしたチョコレートを菓子の意匠として出願しても、チョコレートの形を電卓にしたり、自動車にすることは、菓子業界では一般におこなわれていることですので、創作が容易であるとして、登録されないのです。