知的財産
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形態比較の具体的な方法

形態の比較は基本的構成態様・具体的構成体態様に分説して行う

意匠登録出願をする際には、図面、あるいは図面の代わりになる写真、ひな形、見本を添付することになります。
そして、登録意匠の範囲は、願書の記載や図面等により決定されます。
特許権との大きな相違点ここにあります。

つまり、特許権は、特許請求項に文字で記載された技術思想ですが、この文字の解釈によって特許権の範囲が決定されることになります。そして、特許権を侵害するか否かの判断は、被疑侵害物件を文字で分説していき、特許請求項と対比することで行われます。

他方、意匠権の場合、特許において請求項にあたる部分が図面、それに代わる写真等となっています。そして、対比の対象となる被疑侵害物件についても物として目前に存在します。

とすれば、意匠権の類否判断においては、特許の場合のように各構成要素ごとの文字による分説というものが不要なのでしょうか。

答えは、特許の場合と同様に分説が必要になり、被疑侵害物件のみならず、登録意匠についてもこれを行う必要があるのです。

では、なぜ、図面や写真等により出願されている意匠権を、わざわざ文字で分説する必要があるのかといいますと、理由は簡単で、特許庁における審査や裁判所での判決は、文字をもって表されるからなのです。

審査や判決において、思考過程が明らかになるように言葉をもって説明を行わなければ、理由不備により破棄されることになりますし、判断の客観化が担保されません。
そこで、一見、迂遠にも思えますが、意匠の類否判断においても意匠や被疑侵害物件を言葉で表現することになるのです。

具体的に意匠を文字で分説する手法ですが、これは特許庁、裁判所いずれにおいても共通しています。
まず、全体意匠を、基本的構成要素を分説します。
次に各基本的構成要素ごとにそこに含まれる具体的構成要素を分説するという手法がとられています。

このような手法をとる理由は、理論的に意匠が把握しやすくなるということと、思考経済にかなっているということが挙げられます。

後者の理由をさらに平易に表現しますと、基本的構成に分説し、比較する意匠間の基本的構成に相違点が存在するならば、当該基本的構成に含まれる具体的な構成にまで判断を踏み込むことなく両者が相違すると判断できるということです。

以上が意匠の類否判断の具体的な手法ということになります。

意匠権が理解しづらい理由の一つとして、類否判断の基準が視覚を通じた美感という一見感覚的なものとされているのにもかかわらず、その実は構成要素ごとの対比を文字を利用して行うという点にあるのだろうと考えています。

形態の比較は基本的構成態様・具体的構成体態様に分説して行う

意匠1と意匠2の基本的構成態様 AとA' BとB' CとC'を比較し、一致点・相違点を抽出する。
意匠1と意匠2の具体的構成態様 α1とα'1 α2とα'2 α3とα'3  β1とβ'1 β2とβ'2 β3とβ'3 γ1とγ'1 γ2とγ'2 γ3とγ'3を比較し一致点・相違点を抽出する。

意匠の要部

意匠は、物品の計上、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、「視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいいます(2条1項)。つまり、意匠は、人の視覚をもって捉えられるもので、そうである以上、視覚をもって把握しやすい部分と把握しずらい部分とがあります。
そして、視覚をもって把握しやすい部分は、見る者の注意を惹くことになります。

意匠法1条には、「この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。」と規定されています。
すなわち、意匠法は、産業を発達させるための手段として「意匠」の創作を促し、「意匠」の創作を促す手段として意匠の保護や利用を図る条項を設けているのです。

このような意匠法の規定から、意匠法が特許法や実用新案法と同様に創作を保護する創作法であることが明らかであり、意匠法の保護対象はあくまで創作の産物である意匠ということになるのです。

また、意匠法が保護する「意匠」は、特許や考案と同様に、新規性(3条1項)、創作非容易性(3条2項)を備えたものでなければなりません。すなわち、登録された「意匠」は、従前には存在しない新規な意匠であり、かつ、当業者が容易に創作することができない「意匠」でなければならないのです。

登録意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面(写真・ひな形)により現された意匠に基づいて定められることになります(24条1項)。

特許の場合ですと、権利を要求する部分を言葉で表現された特許請求項により抽出することができるのですが、意匠の場合には権利を要求する部分を含めた全体が図面(写真・ひな形)で現されることになるのです。

ただし、前記したように、「意匠」は創作体であり、かつ、新規性創作非容易性を備わったものでなければなりませんので、全体としての意匠の中にも新規な特徴的な部分があります。
また、意匠が人の視覚によって捉えられるものである以上、見る者の注意を惹く部分があります。

以上のように、図面等によって現された「意匠」には、「新規な特徴的部分」や「見る者の注意を惹く部分」というものがあり、「新規な特徴的部分であり、かつ、見る者の注意を惹く部分」というのが「意匠の要部」となるのです。

そして、意匠の類否判断において、比較対象となる両意匠の「新規な特徴的部分であり、かつ、見る者の注意を惹く部分」を抽出し、比較することが必要になるのです。

ただし、意匠は、図面等によって現されたもの全体が一つの意匠として把握されなければならず、意匠の要部によって現された部分のみではありません。

ですから、比較対象となる両意匠の要部が共通する場合には、類似する意匠という判断に傾きますが、類似すると疑われる意匠に、問題となっている意匠には存在しない別個の創作といえる部分があり、後者の方が与えるインパクトが大きな場合には両意匠は非類似ということになります。

公知部分の扱い

登録意匠は、新規でかつ当業者にとって創作が容易でない意匠に限定されます。
また、意匠は、視覚を通じて起こさせる美感であるところ、見る者の注意を強く惹く部分とそうでない部分とが存在します。

この結果、意匠の類否判断は、意匠全体の比較が行われるものの、「新規な創作部分であり、かつ、見る者の注意を強く惹く部分」である「意匠の要部」どうしの比較が必要になります。
よって、意匠の類否判断において「意匠の要部」の認定が不可欠となります。

「意匠の要部」の認定にあたって「公知な部分」というのは何らかの影響をあたえるのでしょうか。
登録意匠は、新規でかつ創作が容易でないもの限定されており、全体の意匠の一部分に公知な形態等が存在したとしても、別の部分に新規でかつ創作が容易でない部分が存在するはずです。

また、公知の意匠は、見る者にとっても見慣れた形態等であり、見る者の注意を強く惹くこともありません。したがって、公知の部分というのは、意匠の要部たり得ないということになるのです。

ですから、意匠の類否判断において不可欠となる意匠の要部の認定にあたっては、公知部分というのは除外する必要があるのです。

類似意匠・関連意匠の取扱い

意匠登録出願人は、自己の意匠登録出願に係る意匠のうちから選択した一の意匠に類似する意匠の登録をすることができます(10条)。これが関連意匠と言われるものです。

関連意匠制度が設けられた平成10年の法改正以前については類似意匠制度が存在しました。
類似意匠・関連意匠制度は、核となる意匠のバリエーションにつき、類似する範囲で登録を認める制度です。

そして、核となる意匠とバリエーションの意匠との間には、すべての意匠に共通する部分と、それぞれ異なる部分というものが存在します。

核となる意匠と、類似意匠あるいは関連意匠すべてに共通する部分というのは、創作者の具体的造形思想が発現した部分と言うことになります。

このことから、核となる意匠と、類似意匠あるいは関連意匠に共通する部位というのは、核となる意匠にとって要部ということができるのです。

他方、核となる意匠と類似意匠あるいは関連意匠と異なる部分というのは、核となる意匠の要部たり得ません。

以上のことから、意匠の類否判断における「意匠の要部」の認定は、当該意匠の類似意匠あるいは関連意匠が存在する場合には、これらも参考にして行われるものなのです。

比較する意匠の全体比較

意匠の類否判断では、意匠の要部のみ対比だけでなく、意匠全体の対比を行う必要があります。
ただし、一般的に意匠の要部に差異点が存在する場合には異なる美観を有する異なる意匠であるとの判断に傾きやすく、意匠の要部に差異点が存在しない場合には、比較対象となる意匠に異なる美観を形成する部分が存在しない限り類似する意匠であるとの判断に傾きやすくなります。

物品の異同・類否判断、基本的構成態様、具体的構成態様一致点、差異点の抽出、及び意匠の要部の抽出は、ある程度客観性をもって行うことが可能であるが、要部を主とし、全体の意匠との関係も加味して異なる美観を有するか否かの判断は判断者の主観が介入する余地が大きいため意匠の類否判断を困難にしており、判断の適切性の検証も困難にしている理由と言えるでしょう。

類否判断

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