知的財産
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形態の比較

物品が同一・類似する場合に形態の比較を行う

意匠には、以下の4とおりあります。

  1. 形状
  2. 形状及び模様の結合
  3. 形状及び色彩の結合
  4. 形状、模様及び色彩の結合

そして、原則的には、形状、模様、色彩が同一の場合が形態が同一であるとことになり、いずれか一つが異なる場合類似する形態あるいは異なる形態ということになります。
なお、形状のみの形態をどのように考えるべきか争いがあるところですが、基本的には無模様かつ一色の形態であると理解されています。

主観的基準

形態が類似するか否かをどのような基準で判断するか説明します。
意匠の類否判断をどのように行うべきかについては、百家争鳴の観があり、主観的基準としては大別して需用者を基準とするもの、当業者を基準とするもの、客観的基準としては美感を基準とするもの、混同性を基準とするもの、購買意欲を基準とするもの等がありました。

意匠法では、意匠の類否判断を、「需用者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う」とされています。
平成18年改正により前記した基準が条文で明定されたのです。この結果、類否判断における主体的基準については、「需用者」の視覚に基づくことが明確にされました。

この点最高裁昭和49年3月19日「可撓伸縮ホース事件」判決では次のとおり判断されていました。

意匠は物品と一体をなすものであるから、登録出願前に日本国内若しくは外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内若しくは外国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを理由として、法3条1項により登録を拒絶するためには、まずその意匠にかかる物品が同一又は類似であることを必要とし、更に、意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない。」、「しかし、同条2項は、その規定から明らかなとおり、同条1項が具体的な物品と結びついたものとしての意匠の同一又は類似を問題とするのとは観点を異にし、物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準として、それから当業者が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり、そのモチーフの結びつく物品の異同類否はなんら問題とされていない。」、「このことを同条1項3号と同条2項との関係について更に敷衍すれば、同条1項3号は、意匠権の効力が、登録意匠に類似する意匠すなわち登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠にも、及ぶものとされている(法23条)ところから、右のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とするのに対し、3条2項は、物品の同一又は類似という制限をはずし、社会的に広く知られたモチーフを基準として、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものであつて、両者は考え方の基礎を異にする規定であると解される。

平成18年改正は、上記の最高裁判決を確認的に規定したものとされています。

客観的基準

では、客観的基準である「美感」とは何を意味するのでしょうか。
先の最高裁判決では、この点について全く触れられていません。
また、意匠法にも「美感」についての定義規定が設けられていません。

ところで、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡する等の行為を不正競争行為としている不正競争防止法において、「商品の形態」とは、「需用者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。」とされています。

他方、意匠とは、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」とされています。

このことから、不正競争防止法上の「商品形態」と意匠法上の「意匠」との根本的な相違は、「美感」の有無にあり、意匠が単なる商品(物品)の形態とは異なり意匠であるが所以は、「美感」の存在にあるといえるのです。

そして、この「美感」とは、意匠が意匠である所以である以上、「美感」とは何かを検討するにあたり、意匠の本質とは何かということを検討する必要があるのです。

そこで、意匠法における意匠について再度検討しますと、我が国の意匠は、その制度設計において物品と不可分のものとして定められています。
そして、物品は、それが有する効用価値の実現を第1の目的とします。このことから、物品の形態は、その物品に与えられた機能を達成するに必要な形態をとります。

次に、物品は、物品であると同時に『商品』として生産されるものですから、その形態も、当然に、そのものを商品として成り立たせる諸要件、コストや生産性や市場における適応性や競争力などの要件を充足する市場原理の要請を受けることになります。

意匠の本質は、物品の機能を達成するという要請と市場原理による要請とを全体的、統一的調和をもって形づくるところにあると考えます。

そして、物品の機能を達成するという要請と市場原理による要請とを融合させる際の形態を律する全体的調和的秩序が、まさしく「美感」といえるのです。

以上をまとめますと、形態の類否判断は、需用者の視覚を基準として、物品の機能を達成するという要請と市場原理による要請とを融合させる際の形態を律する全体的調和的秩序が類似するか否かという基準によって判断されると考えればよいと思います。 かかる基準を前提に、比較の対象となる意匠の共通点・差異点を抽出して、これらが各部分各要素を総合した形態を律する調和的秩序の類否を検討することになります。
そして、この形態を律する調和的秩序に与える影響の大きい部分(これを意匠の要部と表現することがあります。)が共通する場合には、比較された両意匠は類似すると判断されることになるといえます。

類否判断における傾向

特許庁においては、共通点・差異点が意匠に与える影響について、個別具体的に判断するということを前提としながらも、一般的には以下のことが言えると説明し、判断の客観化に努めています。

この特許庁の審査基準は、意匠権侵害の場面でも参考になると思います。

  1. 見えやすい部分は、相対的に影響が大きい。
  2. ありふれた形態の部分は、相対的に影響が小さい。
  3. 大きさの違いは、当該意匠の属する分野において常識的な範囲内のものであれば、ほとんど影響がない。
  4. 材質の違いは、外観上の特徴として表れなければ、ほとんど影響を与えない。
  5. 色彩のみの違いは、形状又は模様の差異に比してほとんど影響を与えない。

そもそも、意匠法が保護する意匠とは、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいいます。
ですから、視覚に入ったときの印象の大きさが意匠の類否判断に影響を及ぼすことは当然のことと言えるです。

そして、審査基準が一般的な基準として示している1. 〜5. は、私たちが物品を眼にしたときに受ける印象の受け方についての一般的な例を列挙したものと言えるのです。

意匠の類否判断について判示した著名な裁判例である東京高裁昭和63年7月27日「建物壁用装飾板事件」判決は、次のとおり判示し、意匠全体を統一的に観察してその部分が意匠全体の中で支配的で意匠的まとまりを形成し見る人の注意を引く部分、意匠の要部を対比する手法を採用しています。

意匠の類似、非類似の判断に際しては、対象となる意匠は各部分各要素を総合した全体的な統一体として評価されるのであり、意匠から周知または公知の部分を除外して残った部分のみを評価の対象とするのではない。

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