知的財産
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物品が類似する場合に形態の比較を行う

比較する意匠の形態の比較は,それぞれの意匠の基本的構成態様,各基本的構成態様の具体的構成態様に分説して比較を行うことになります。

基本的構成態様とは,意匠の構成を大きくとらえたものです。

他方,具体的構成態様とは,基本的構成態様をさらに詳細に分説したものです。

なお,登録意匠は,図面や写真,ひな形や見本によって特定されますが,裁判所の判決や特許庁の審決は文字によって理由を示す必要があります。

ですから,比較する意匠について分説(各構成態様を文章で表現する)という作業が必要になるのです。

比較する意匠の各基本的構成態様,各具体的構成態様の比較をおこなって,それぞれの意匠の一致点と差異点を抽出します。

なぜ,このような比較方法を採用するかといいますと,比較を行ったことの結果について第三者が検証を行いやすいという理由があります。

また,このような方法を採用することで,仮に基本的構成態様において差異点が多数存在することが判明すれば,具体的構成態様について詳細な検討を加えることなく結論に至る場合があり,思考経済に適うという理由があるからです。

比較する意匠の差異点が多いということになりますと異なる意匠という判断に傾きやすくなりますし,逆に一致点が多数存在して差異点が少ないということになりますと類似する意匠という判断に傾きやすくなります。

ところで,意匠の類否判断を行う場合,一致点,差異点が存在する部分というのは,全て同じ価値のものとして評価してよいわけではありません。

cont_img_80.jpg意匠は,「視覚を通じて起こさせる」ものであるため,視覚によって確認することが容易な部分と困難な部分とは,自ずから類否判断に与える影響はことなります。すなわち,視覚によって確認が容易な部分は類否判断に与える影響が大きくなりますし,視覚によって確認が困難な部分は類否判断に与える影響が小さくなります。

このような物理的要因による評価の軽重は,不正競争防止法の商品形態についても同様のことが言えます。すなわち,商品形態は,「知覚によって認識することができる」ものであるため,知覚によって認識することが容易な部分は実質的同一性の判断に与える影響が大きくなりますし,知覚によって認識することが困難な部分は実質的同一性の判断に与える影響が小さくなるのです。

さらに,意匠の場合は,法的な観点から評価に軽重をつけなければなりません。この点が商品形態の実質的同一性の判断と決定的に異なるところです。

意匠とは,「物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」のことですが,全ての意匠が登録されて意匠法によって保護されるわけではありません。

公然と知られた意匠,刊行物等により公表されている意匠,これらに類似する意匠は登録されません。

また,単に新規な意匠な意匠というだけでなく新規な意匠の創作が容易である場合にも登録されないのです。

つまり,登録された意匠というのは,新規でかつ創作非容易な意匠ということになります。そして,全体の意匠の中で新規でかつ創作非容易な部分というのは,見慣れた意匠ではありませんので,自ずから目につきやすくなります。

なお,意匠権の対象となっている意匠の新規な部分というのは,公然と知られた意匠との比較において抽出します。

また,関連意匠(関連意匠の制度が導入される前であれば類似意匠)が存在する場合には,全ての意匠に共通する部分は意匠権を取得した者が保護したいと望む共通の創作部分であるため,創作非容易な部分であるといえます。

ですから,新規でかつ創作非容易な部分の抽出というのは,公知意匠や関連意匠(類似意匠)との比較によって行われます。

意匠の中で新規かつ創作非容易な部分というのは,意匠の類否判断に対する影響が大きくなり,それ以外の部分というのは類否判断に対する影響が小さくなります。

なお,意匠の中で新規かつ創作非容易な部分は「意匠の要部」と呼ばれ,意匠の要部は,意匠の類否判断に与える影響が大きいということになるわけです。

基本的には物品の機能により決定づけられるのですが,それをベースに製造,流通の過程を経て需要者の手に届くまでの様々な要請から生まれる形態への要求を加味して,一つの物品に秩序立てて表現する上での形態的な秩序が意匠法で

いうところの「美感」であると考える以上,意匠は物品全体において現われるものということになりますので,意匠の類否判断は,意匠全体の比較であるということを忘れてはいけません。

すなわち,意匠の要部は,意匠の類否判断を行う上で大きな影響を及ぼすことになりますが,意匠の要部のみで意匠の類否判断を行ってはならず,意匠の類否判断は意匠全体との関係で最終的な判断を行う必要があるのです。

cont_img_21.jpgところで,意匠法には,「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されています。

なお,この規定は,意匠権の権利の範囲に関する規定ではあるものの,公知意匠,刊行物に記載された意匠と類似するか否かの判断(新規性の判断)においても,適用されるものであることは,既に説明したとおりです。

よって,既に説明した手法によって類否判断を行うにあたっての判断者は需要者ということになります。

また,一つの物品に表現された形態的秩序が同一か否か基準に判断することになります。

一つの物品に表現された形態的秩序を基準にすると説明されても,それが何であるかということが理解できないという疑問が投げられることがありますが,特定の物品の形態としての整然性であると理解しています。

物品の形態としての整然性というものは,どこまで突き詰めて考えたとしても主観的な要素を完全に拭い去ることができません。

また,技術のように定量性がなく,また第三者による客観的な確認が困難であるという側面が存在します。

これらが意匠の類否判断に関する理解や予測を困難にしている要因であると考えています。

意匠権の効力が及ぶ範囲がスッキリとした形で理解できないというのは,やむを得ないのではないでしょうか。

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