法的に商品のデザインを保護していくためには,複数の法律を駆使する必要があります。
商品のデザインを保護する法律で代表的な法律は意匠法です。
意匠法でいうところの意匠とは,「物品(物品の部分も含みます。)の形状,模様,もしくは色彩またはこれらの結合であって視覚を通じて美感を起こさせるもの」のことを言います。
簡単に言えば,商品(物品)のデザインです。
意匠は,新規性,創作非容易性の要件があれば特許庁に登録することができ,登録から20年間保護されます。
商品のデザインを確実に,長期間保護するというのであれば意匠登録を行うという方法が最も適しています。
しかし,多数の商品デザインを行う企業が全てのデザインについて意匠登録出願を行うことは困難なことですし,費用対効果的にみても全てのデザインを登録すること不可能です。
また,商品がヒットし,フリーライドする商品が市場に出てきた段階でデザインを保護する必要性を再認識するということがありますが,意匠登録を行う要件となる新規性を備えるためには,原則として商品を販売する前に意匠登録出願を行っておく必要があるため,商品販売後に意匠登録を行うことはできません。
それでは,意匠登録されていない,あるいは意匠登録をすることができない商品のデザインは一切保護されないことになるのでしょうか?
意匠登録がされていない商品であったとしても,不正競争防止法により保護される可能性があります。
不正競争防止法は,法律の名称からも推測することができるように,市場における事業者間の公正な競争を実現する法律であり,特定の者の財産権を保護する法律ではありません。
しかし,不正競争防止法は,上記の目的を達成する方法として,不正競争行為により損害被っている者に対し,差止請求権と損害賠償請求権という二つの武器を与えています。
この結果,不正競争防止法は,特定の者の利益を保護するという機能を有するのです。
そして,不正競争防止法が定める不正競争行為の一つに商品形態模倣があります。
他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,又は輸入する行為を不正競争行為と定め,差止め,損害賠償の対象と定めています。
商品形態を模倣する不正競争行為は,商品の販売開始から3年間という限られた期間のみ不正競争行為となり,差止め,損害賠償の対象となります。
それでは,販売開始から3年が経過している場合には,デザインをフリーライドされる行為を放置せざるを得ないのでしょうか。
商品のデザインが長年採用されている,短期間であっても爆発的なヒット商品となった場合などには,特定の者が販売する商品であると認識できるほどの知名度を獲得し,商品のデザインが商品の出所を示す機能を獲得することがあります。
商品のデザインが出所表示機能を備えるに至った場合には,デザインのフリーライドが他人の商品の表示を使用する,表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入したということになりますので,
商品形態の模倣とは異なる不正競争行為に該当することになります。
したがって,販売から3年を経過した商品のデザインについては,他人の表示の使用に関する不正競争行為に該当しないか検討する必要があります。
それでは,不正競争防止法が定める不正競争行為に該当しない場合には,商品デザインのフリーライドを見過ごさなければならないのでしょうか。
不正競争行為に当たらないとしても,民法による損害賠償請求が認められる場合があります。
不正競争行為に該当しない行為は,基本的には行ってもよいということになりますが,デザインをフリーライドしている者が劣悪な商品を販売しており,それによりフリーライドされている者の信用が毀損されているような場合には,別途,損害賠償の対象となります。
以上のように商品のデザインを法的に保護する場合には,複数の法律にまたがった検討が必要となり,最終的には民法による損害賠償請求だけでもできないかというところまで検討する必要があるのです。