知的財産
知的財産

民法による保護

意匠法、商標法、不正競争防止法、著作権法のいずれによっても、キャラクターの保護が出来ない場合、どのようにすればよいのでしょうか。

最高裁平成16年2月13日「ギャロップレーサー事件」判決において

「商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っているが、その反面として、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている。」と判示されているように、原則的に知的財産法各法の要件を充たさない行為は、自由であると考えられています。

それでは、知的財産法各法の要件を全て充たさない行為は、全く自由に認められるかといえばそうではありません。

以下で引用するように、例えば、劣悪な類似品により他人の営業上の信用を破壊した場合や、「隷属的模倣」と言われるものについては民法709条に基づく損害賠償請求が認められる余地があります。

ここで、知的財産法各法に認められるような差止請求権が認められるかといえば、これについては認められません。

古くから民法709条に基づく差止請求権が認められるかについては争いのあるところですが、現時点において、少なくとも知的財産権の分野において差止請求権が認められないということは争いの余地がないものと考えています。

以下では、民法709条に基づく損害賠償請求が認められた事例で代表的なものを引用します。

なお、京都地裁平成1年6月15日「佐賀錦袋帯事件」判決においては、劣悪な類似品の販売により他人の営業上の信用を侵害したとして損害賠償が認められました。

他方、東京高裁平成3年12月17日「木目化粧紙事件」判決はいわゆる「隷属的模倣」と認定して損害賠償を認めています。

ところが、大阪地裁平成10年1月29日「クマポシェット事件」判決は、隷属的模倣の要件と競争秩序の両方の要件が備わっている場合に限り、損害賠償請求が認められると判示されています。

このような営業上の信用に関する損害は、積極的損害と言われるもので、自らの営業上の信用が毀損されたことを主張立証すればよいのです。

他方、実質的に同一のものを廉価で販売されたとしても、自らの営業上の信用は毀損されることにはらなず、単に利益を得る機会を奪われただけです。

このような本体得られるはずの利益が得られなくなった損害のことを消極的損害と言われています。

後記するクマポシェット事件判決は、隷属的模倣による消極的損害の賠償を求めるにあたっては、著しく廉価で販売する等の不公正な方法によって行われる必要があると判示しているのです。
つまり、同判決は、単に隷属的模倣であるというだけでは損害賠償を認めず、さらに著しく不公正な方法を用いて販売していることが必要であると判示しているのです。
この考えは、最高裁平成16年2月13日「ギャロップレーサー事件」判決にも合致するものであり、今後の裁判例の主流になるのではないかと考えています。

京都地裁平成1年6月15日「佐賀錦袋帯事件」判決

「原告は、被告の本件袋帯の製造販売により、問屋から原告が本件袋帯に類似した品質の劣る袋帯を安価で別途に販売しているように誤解されて多数の苦情を受け、本件袋帯甲に関する営業活動及び原告の営業上の信用を侵害されたこと、以上の事実が認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実によれば、原告が本件袋帯ないし本件図柄につき不正競争防止法に基づく差止請求権及び著作権を有しないことは前記のとおりであるけれども、それでもなお、被告の本件袋帯乙の製造販売行為は不法行為を構成するものといわなければならない。」

東京高裁平成3年12月17日「木目化粧紙事件」判決

「人が物品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造販売することによって営業活動を行っている場合において、該物品と同一の物品に実質的に同一の模様を付し、その者の販売地域と競合する地域においてこれを廉価で販売することによってその営業活動を妨害する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。・・・。控訴人は、原告製品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造販売することによって営業活動を行っているものであるが、被控訴人は、原告製品の模様と寸分違わぬ完全な模倣である被告製品を製作し、これを控訴人の販売地域と競合する地域において廉価で販売することによって原告製品の販売価格の維持を困難ならしめる行為をしたものであって、控訴人の右行為は、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を甚だしく逸脱し、法的保護に値する控訴人の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。・・・。したがって、被控訴人は控訴人に対し前記不法行為により控訴人が被った損害を賠償する責任を免れない。」

大阪地裁平成10年1月29日「クマポシェット事件」判決

「他人の商品形態を模倣した商品を販売するなどの行為は、その商品形態が特許権、意匠権等の知的財産権によりあるいは不正競争防止法により保護されるなどの場合を除き、それだけで直ちに民法上違法な行為として不法行為を構成するものではなく、不法行為を構成するというためには、ことさら他人の商品との誤認混同を生じさせて自己の利益を図り又は他人に損害を被らせることを意図するなど、不正な競争をする目的で他人の商品形態をそっくりそのまま模倣し、他人の販売先に積極的、集中的に販売するなど、当該商品の市場における公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法をもって、他人に営業上、信用上の損害を被らせたというような特段の事情の存することが必要であると解すべ」きである。

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