弁護士視点で知財ニュース解説

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TPP 著作権問題も紛糾

現在,カナダのオタワで行われているTPPの首席交渉官会合と並行して行われている著作権に関する分科会において,著作権の保護期間などをめぐる議論が難航しているようです。

現在,日本とアメリカをはじめとする国々との調整が行われていますが,問題となっているのは,著作権の保護期間と日本が負う「戦時加算」の撤廃についてです。

日本では,著作権の保護期間は,原則として著作者の死後50年とされ,映画の著作物については原則として公表後70年とされています。

他方,アメリカの著作権保護期間は,少し複雑でして,概要を整理しますと以下のとおりとなります。

1978年1月1日以降に創作された著作物

  • 原則 70年
  • 職務著作 創作後120年,発行後95年

1978年1月1日時点で未発行の著作物

  • 原則 1978年1月1日以降に創作された著作物と同じ
  • 例外 1909年法により保護されていなかったことを考慮しご保護期間の始期は1978年1月1日,保護期間の最短は2002年12月31日,2002年12月31日までに発行された場合には,保護期間の最短は2047年12月31日

1978年1月1日時点で発行済みの著作物

  • 1923年ないし1949年に発行された著作物は,発行後28年間保護され,更新登録によって67年間延長される
  • 1950年ないし1977年に発行された著作物は,発行後28年間保護され,さらに67年間の更新延長がなされる。

アメリカでは数次にわたり著作権法が改正され,未発行の著作物が保護されていなかったり,登録が必要であったものが不要になったりしたために,上記したような区分が行われています。

アメリカの著作権法は,別名「ミッキーマウス保護法」とも呼ばれ,ミッキーマウスの著作権の保護期間が経過する直前になると著作権の保護期間が延長されるという経緯を得ています。
なお,アメリカにおいても,著作権の保護期間が延長されることが問題であると考えている方も多く存在し,著作権の保護期間を延長する法律が憲法に反するとして訴訟が提起されたこともありましたが,2003年に連邦最高裁において合憲であるとの判断が下され,問題は沈静化しました。

アメリカは,多くのアニメーションやハリウッド映画を抱えている関係で,TPPにおいても1978年1月1日以降に創作された著作物の保護期間と同一の保護をTPPに加盟する国に求めているわけです。
そして,多くの国がアメリカの要求をのむ中,日本が現在もこれを了承していないという状況にあるわけです。

また,日本は,第二次世界大戦後のサンフランシスコ平和条約に基づき,「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」(戦時加算特例法)を設けており,海外の著作物に対して戦時加算を行って保護する義務を負っています。

戦争開始前から連合国民が有していた著作権については,日本が参戦した日(1941年12月8日)から各国の平和条約が発効した前日まで,戦争期間中に連合国民が取得した著作権については,著作権を取得した日から各国の平和条約発効前日までの期間が加算されます。

但し,連合国のなかでも国によっては,平和条約の発効日が異なるため,加算期間が異なります。たとえば,アメリカ,イギリス,フランスなどは1952年4月28日に平和条約が発効していますので,それらの国の国民が戦争開始前から有していた著作権については,本来の保護期間である著作者の死後50年に,日本が参戦した1941年12月8日から平和条約発効前日までの3,794日(約10年5ヵ月)が加算されます。

日本は,今回のTPP交渉において,サンフランシスコ平和条約により課せられた著作権法の保護に関する戦時加算の撤廃を求めていますが,アメリカは強硬に反対しています。

これらの問題も,閣僚級会合に持ち越されることになりそうですので,今後の交渉の行方については注意する必要があります。

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