弁護士視点で知財ニュース解説

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商標について考える

cont_img_69.jpg味の素が,オランダのジェイコブズ・ダウ・エグバーツ社から,「Blendy」や「MAXIM」などを259億円で取得すると報道されています。

そもそも,味の素が259億円もの多額の対価を支払って著名な商標を取得する理由は,多額の対価を支払ったとしても,それ以上のリターンが得られると判断したからですが,その前提として,「Blendy」や「MAXIM」などの商標に消費者を引き付ける力があるからです。

商標がもっている消費者を引き付ける力は,専門的には「顧客吸引力」と呼ばれています。
商標の「顧客吸引力」というものは,経験上でも容易に理解してもらえると思うのですが全ての商標が持っているわけではありません。

そもそも,商標とは,自分の商品やサービスと他人の商品やサービスとを区別するためのマークのようなものですが,既に存在する商標と異なる商標を制作すれば,その商標には自分の商品やサービスと他人の商品やサービスとを区別する機能が備わります。
これが,商標の「自他商品識別機能」と呼ばれるものです。

商標には元来「自他商品識別機能」が備わっており,これを逆から見れば「自他商品識別機能」を備えていない商標(他人の商標と類似するため,この機能がない商標)は,登録することができないのです。

「自他商品識別機能」を備えた商標を使用し,消費者に一定の認知度が備わってくると,商標を見れば誰が提供している商品やサービスであるかということが判断できるようになります。
これが,商標の「出所表示機能」と呼ばれるものです。

また,特定の商標を付して良質な商品やサービスの提供を継続すると,特定の商標を見れば,その商品やサービスの質を理解することができるようにもなります。
これが,商標の「品質保証機能」と呼ばれるものです。

「自他商品識別機能」,「出所表示機能」,「品質保証機能」を備える商標を繰り返し使用することにより,消費者の間に,特定の商標に対するブランド意識が醸成されるようになります。
このような状態にまで達した商標が,冒頭でしてきた「顧客吸引力」を備えた商標ということになります。

他人の商品やサービスと区別することができ登録が認められただけの商標には,何らの経済的価値もありません。
商標が繰り返し使用され「出所表示機能」や「品質保証機能」を備えるようになると商標の経済的価値が生まれ,「顧客吸引力」まで備えるようになるとさらに大きな経済的価値を有するようになり,非常に強い「顧客吸引力」を備えるようになると今回のような巨額の対価で商標が取引されるようになるのです。cont_img_53.jpg

商標というものは,もともと「自他商品識別機能」しか備えていないのですが,繰り返し使用することにより「出所表示機能」,「品質保証機能」,「顧客吸引力」を備えるようになり,商標の経済的価値が生まれるわけですから,他人の商標と類似するが,出所を見誤る可能性が少ない(利用されている商標の商品と当該商品とを明確に区別できる可能性が高い)という商標のパロディは,他人の商標の「顧客吸引力」を利用し,あるいは,他人の商標の「品質保証機能」を害していることが多く,出所を見誤ることがないとしても商標権侵害の問題が発生するのです。
先般報道された大阪ミナミのブランド商標をパロディした商品を販売していた業者が検挙される理由というのも,このような商標の機能を害しているからなのです。

他方で,単に登録されているだけで「自他商品識別機能」だけを備える商標を使用したとしても,将来にわたり使用することはできなくなることがあっても,使用していたことによる損害賠償が認められないということもあり得ます。
「小僧」という商標を登録していた者が「小僧寿し」のフランチャイズ加盟店を相手どって,「小僧寿し」の使用差止めと損害賠償を求めた裁判で,最高裁は,「小僧」という商標に経済的価値が認められず,「小僧」に類似する商標を使用したとしても損害賠償請求を認めないと判断しました。

このように商標は,登録しただけでは,必ずしも法律が予定する権利を備えるというものではなく,使用することにより一定の機能を備える必要がある反面,使用することにより「顧客吸引力」などを備えた商標については,商標権を有する者の商品やサービスと見誤る可能性が少ないとしても商標権を侵害していると評価されることがあるのです。

商標とは他人の商品や役務と区別するためのもの,登録された商標は自ずと法律に定められた効力を有するものであると考えがちで,それに基づいた判断が行われることが多いのですが,商標に関する権利については使用状況を前提にした実質的な判断が必要になりますので,注意を要するところです。

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