弁護士視点で知財ニュース解説

職務発明の報酬基準義務付け

特許法は、職務中に行った発明は従業員に帰属すると規定されている関係で、企業では、職務発明に関する社内規定を定め、「職務発明にかかわる特許を受ける権利は会社に属する」としているところが多い。なお、特許法でも、職務中に行った従業員の発明についても、社内規定を定め「相当の対価」を支払えば、予め企業が企業が特許を受ける権利を承継することができる旨の規定が存在する。

1997年の発明協会の調査では、職務発明に関する規定が設けられている企業でも、発明報奨金額の最大金額が30万円にすぎず、特許権が付与された際の報奨金が1万5000円から3万8000円程度であった。このような環境の中で、日亜化学と元従業員であった中村修二氏との間で、特許権の帰属及び相当対価の支払いを求めた訴訟(いわゆる「中村訴訟」が行われ、東京地裁では特許を受ける権利を承継させたことの対価として200億円の支払いを命じる判決が下され、東京高裁においても8億4000万円で和解が成立した。

このような企業としては、予期することができない高額な相当対価の支払いという事態を回避すべく特許法の改正が行われた。「契約、勤務規則、その他の定めにおいて前項(相当対価に関する規定)の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであってはならない。」という規定が設けられた。 すなわち、特許法は、相当対価の決定にあたり、従業員等が関与し、従業員等の意見が反映され相当対価の金額が不合理とはいえないという基準のものであるならば、基本的に社内規定を尊重しようという立場にたった。ここで重要になるのは、手続の合理性と基準の合理性である。

特許法は、上記した規定を設けることによって企業の努力を促し、職務発明の相当対価の支払いに関する紛争を回避しようとしたわけであるが、現在においても、多くの企業において、職務発明の相当対価に関する規定の整備状況が十分であるとは言えない状況である。

そこで、政府は、企業に対して、職務発明の相当対価に関する規定の義務付けを検討するに至った。3月24日に特許庁において開かれる有識者会議で検討がはじめられ、政府が6月に改定する成長戦略に盛り込まれ、来年の通常国会に特許法改正案を提出する見込みである。また、特許庁は、特許法の改正に合わせてガイドラインを設ける予定である。

職務発明の相当対価に関する規定については、社内弁理士等から質問を受けることが少なくないが、当該規定を設ける企業の業種、発明が属する分野、特許発明の企業に対する貢献度が異なる中で一朝一夕に設けることができない厄介な規定であるといえる。しかし、厄介であるからといって放置する企業が多いために今般の特許法改正の流れに繋がっているわけである。

企業としては、特許法改正に先立って職務発明の相当対価の支払いに関する規定の整備、改定が求められるところである。規定を設けるにあたってポイントとなるのは、従業員等が関与して設けられた規定であるか否か、相当対価の決定にあたり従業員等が意見を述べる機会が与えられている否かという点にある。

このような従業員関与の制度は、賃上げの労使交渉に近似しており、多くの企業においても賃上げ交渉のノウハウは持っていることだろうと思うし、既に持ち合わせているノウハウを最大限に生かし、法律が求める職務発明の相当対価に関する規定を設けるためには、総務部等との連携が欠かせないと思われる。

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