弁護士視点で知財ニュース解説

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著作権の放棄

先日,シンガーソングライターの泉谷しげるさんが,自身で作詞・作曲された楽曲を永久に廃棄し,著作権を放棄したいとブログで発表されました。

s002.jpg著作権の放棄とは,どのような意味を持っているのでしょうか。

著作権とは,著作物を排他的に利用する権利であり,第三者が著作物を無断で利用している場合には,差止請求や損害賠償請求をすることができます。

著作権法上,著作権を放棄する場合の手続は定められていません。
著作権の放棄の方法,効果について言及した判例は存在しないようですが,ほとんどの学説では著作権の放棄を認めており,放棄により権利は消滅し,万人が利用可能になると解すべきであろうとされています。

いずれにせよ,泉谷さんのようにインターネット上で著作権の放棄を宣言されたにもかかわらず,差止請求や損害賠償請求をすることはないと思われますが,仮に請求を行ったとしても,自らが事前に行った宣言と矛盾する請求となり,信義則に基づいて,あるいは,権利濫用として,請求が認められないだろうと考えています。

もっとも,注意しなければならないのは,著作権法には,財産的な権利とは別に著作者人格権という権利が定められています。


著作者人格権は,一身専属性があり,譲渡ができないとされていることとの関係で,著作者人格権については原則として放棄ができないと考えられています。したがって,著作権が放棄されていても,著作者人格権を侵害する利用については,損害賠償請求や差止請求を受ける可能性が認められることに注意しておかなければなりません。


なお,作詞・作曲についての著作権は,一般的に音楽出版社に譲渡されることが多いため,泉谷さんの著作権も,おそらく音楽出版社に譲渡されている可能性が高く,その場合には,泉谷さんは著作権者ではなく著作権の放棄はできないのではないかと思われます。

公衆に対して著作物の利用を許諾することは,第三者がその著作物の利用を通じて更なる創作活動をすることができ,著作権法の目的のひとつである文化の発展に寄与するといえます。
実際,GNU Free Documentation Licenseや自由利用マークのように公衆に対して利用を許諾していることもあります。
今後,公衆に対する利用許諾について制度が構築されていくことが望まれます。

ところで,他人の著作物を使用する場合には,ライセンス契約を締結することが通常です。ライセンス契約とは,対価を支払う代わりに著作物の利用について責任追及しないという内容の契約です。
もっとも,公衆に対する利用許諾がなされている場合には,ライセンス契約を締結することなく,著作物を利用できます。

s031.jpg他にもライセンス契約を締結せずに,利用できる場合があります。
著作権法上,著作権が制限されている場合があり,その要件を充たせば著作権侵害が成立しなくなるので,わざわざ対価を払う必要がないからです。例えば,私的な複製については,著作権侵害は成立しません。
また,より根本的な問題として対象物が著作物ではない場合もライセンス契約を締結する必要はありません。著作物でなければ著作権は発生しないからです。

もっとも,著作物性の判断や権利制限の要件の充足の判断は,一筋縄ではいかないことも多いので,リスクヘッジとしてライセンス契約を締結しておくということも考えられます。

この機会に,あなたの会社が締結している著作権のライセンス契約を確認してみてはいかがでしょうか。

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