弁護士視点で知財ニュース解説

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マジコンは著作権法違反!?

千葉県警サイバー犯罪対策課と船橋署は,5月16日,携帯型家庭用ゲーム機に内蔵されている不正コピーソフト使用制限プログラムを無効化する装置(いわゆるマジコン)をインターネットを通じて販売した男性を不正競争防止法違反の疑いで逮捕したと発表しました。

cont_img_73.jpg一般的に,マジコンは違法であると認識されていると思いますが,いかなる法律に違反しているかまで理解している方は少ないと思います。
上記のように,マジコンを販売した男性は不正競争防止法違反の疑いで逮捕されていますが,マジコンは著作権法違反ではないのかと思われた方も多いのではないでしょうか。

実は,マジコンの販売,利用は,著作権法には違反しないとされています。
違反する可能性があるとすれば,著作権法第120条の2第1号です。しかし,裁判例において,同号が保護しているのは,著作物の複製を防止する機能(コピー管理技術)であり,著作物の視聴を制限する手段(アクセス管理技術)は含まれないとの判断がなされており,マジコンはアクセス管理技術を回避するに過ぎないため,マジコンの販売,利用は著作権法違反ではないとされています。

マジコンが著作権法違反と結びつけられやすいのは,マジコンが著作権法に違反する行為を助長するからであると考えられます。

マジコンを利用してプレイする場合,インターネット上に違法にアップロードされたゲームソフトのイメージファイルをダウンロードして使用されることが多いのですが,このダウンロードは私的複製の例外として著作権法違反となります。本来であれば,イメージファイルだけを所持していてもプレイすることができないので意味がなく,ダウンロードする動機が生じないのですが,マジコンがあればイメージファイルを使用してゲームをプレイすることができるため,違法なダウンロードが助長されてしまいます。

このように,マジコンの販売は著作権侵害行為を助長するものであるので,著作権法に違反する行為を幇助する行為であるとして,あるいは,実質的にはマジコン販売業者が著作権侵害の主体であるとして,著作権法違反の責任を問うという法律構成も考えられます。

幇助責任については,最高裁判決(Winny事件)において,具体的な著作権侵害を認識,認容しながら提供行為を行った場合や,例外とはいえない範囲の者が著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で提供者もそのことを認識・認容しながら提供行為を行っていた場合には,著作権侵害の幇助責任を認めると判示されています。
マジコン販売時において,そのユーザーの違法ダウンロード行為を認識することはできないため,具体的な著作権侵害を認識,認容しながら提供行為を行ったとはいえません。
また,マジコン自体が著作権侵害行為に利用するものではない以上,著作権侵害に利用する蓋然性が高いといえません。
そもそも,マジコンは,著作権侵害行為を容易にするものではないので,著作権侵害の幇助を行ったと評価されたない可能性も十分認められると考えられます。
したがって,マジコンの販売に著作権侵害の幇助責任と認めることは難しいと考えられます。

s021.jpgマジコン販売業者が実質的な著作権侵害の主体であるとする法律構成については,最高裁判決では,著作権侵害を構成する装置を管理,支配していることを侵害主体性の判断において重視し,ユーザーの物理的行為が著作権侵害となる場合でも,業者が著作権侵害を構成する装置を管理,支配しているといえる場合には,業者が侵害主体であるとの判断がなされています。
マジコンは,前記のとおり,利用自体は著作権侵害となるものではなく,また,販売業者がマジコンを管理しているとはいえないため,マジコン販売業者が著作権侵害の主体ということは困難と考えられます。

以上のように,現在の裁判例の状況からすると,マジコン販売業者に著作権法違反の責任を問うことは難しいと言わざるを得ません。著作権法違反には刑事罰が課されているため,厳格な解釈が要求される結果であると考えられます。

もっとも,不正競争防止法第2条第10号は,著作物の視聴等を制限する機能(アクセス管理技術)の効果を妨げることにより,著作物の視聴等を可能にする装置やプログラムの提供等を禁止しており,同号に違反する場合には刑事罰が課されます。マジコンは,このようなアクセス管理技術を回避する機能を有するので,マジコンの販売は同号により規制されます。
また,前記のようにイメージファイルのダウンロードも著作権法により規制されていますので,マジコンの利用自体を規制しなくとも,規制としては十分ということになります。

近年,オンラインゲームが急激に普及しており,今後は,オンラインゲームの不正利用についても,規制する必要があると考えられます。
オンラインゲームの不正利用としては,アカウントの不正利用や不正ツールによるゲーム内容の改変が挙げられます。

アカウントの不正利用については,不正アクセス行為の禁止等に関する法律により規制がなされていますが,不正ツールの利用については規制がなされていません。

シュミレーションゲームのストーリーを本来予定された範囲を超えて展開させストーリーの改変をさせたとして,著作者人格権(同一性保持権)侵害を認めた最高裁判例が存在しますが,ストーリーの改変を伴わない場合には,プログラムそのものを改変しない限り,ユーザーの行為を著作権法によって規制することは難しいでしょう。
もっとも,不正ツールを記録した媒体・機器,または,そのプログラム自体の提供する行為は,不正競争防止法により規制されます。

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