弁護士視点で知財ニュース解説

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がん治療薬の特許存続期間延長に関する特許庁の審決取消し・知財高裁

財高裁は,平成26年5月30日,アメリカのバイオ企業ジェネンテック社が結腸・直腸がん治療薬の特許延長を求めた訴訟において,存続期間延長を認めなかった特許庁の審決を取消しました。

なお,本件は,裁判官5人によって判断される大合議事件です。

特許権は,出願の日から20年で終了するのが原則です(67条1項)が,特許発明の実施について安全性の確保などを目的とする法律の規定などにより特許発明の実施をすることができない期間があったときは,延長登録出願により最大5年間の存続期間延長をすることができます(67条2項)。

ジェネンテック社は,平成19年に「投与間隔は2週間以上」などとして製造販売の承認を受け,平成21年に「3週間以上」などと用法・用量を変更して再度承認を得ていたところ,平成21年の承認を根拠の存続期間の延長を求めていましたが,特許庁は,「成分や用途は変わらない」ず67条の3・1項1号に該当するという理由で延長登録を認めませんでした。
なお,ジェネンテック社は,4つの特許権につき,それぞれ延長登録の申立てを行っており,特許庁は,審決で,いずれも延長登録を認めませんでしたが,知財高裁は,いずれの審決も取消ししました(知財高裁平成25年(行ケ)第10195号事件,同第10196号事件,同第10197号事件,同第10198号事件)

知財高裁は,特許法67条の3・1項1号の「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,

  1. 「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと
  2. 「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為に含まれること

が前提となり,その両者が成立することが必要であると解釈し,

審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,

  1. 「政令で定める処分を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」(第1要件)
  2. 「『政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された行為』が『その特許発明の実施に該当する行為』には含まれないこと」(第2要件)

のいずれかを選択的に論証することが必要となると判断しました。

そして,薬事法14条1項又は9項に基づく承認の対象となる医薬品は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」によって特定された医薬品であり,上記承認によって禁止が解除される行為態様は,当該承認の対象とされた,上記事項によって特定された医薬品の製造販売等の行為であると解約した上で,特許法67条の3・1項1号の規定する前記第1要件の有無を判断するに当たっては,医薬品の審査事項である「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」の各要素を形式的に適用して判断するのではなく,存続期間の延長登録制度を設けた特許法の趣旨に照らして実質的に判断することが必要であるとし,医薬品の成分を対象とする特許(製法特許,プロダクトバイプロセスクレームに係る特許等を除く。)については,薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は,上記審査事項のうち「名称」,「副作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項(成分,分量,用法,用量,効能,効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当であると判断しました。

その上で,用法・用量によって特定される使用方法による本件医薬品の使用行為,及び上記使用方法で使用されることを前提とした本件医薬品の製造販売等の行為の禁止は解除されておらず,本件処分によってこれが解除されたのであるから,本件処分については,延長登録出願を拒絶するための前記の選択的要件のうち,「政令で定める処分を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」との要件(前記第1要件)を充足していないことは,明らかであり,また,本件処分については,延長登録出願を拒絶するための前記の選択的要件のうち,「『政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された行為』が『その特許発明の実施に該当する行為』には含まれないこと」との要件(前記第2要件)を充足していないと判示しました。

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