弁護士視点で知財ニュース解説

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「日本餃子協会」 どちらがほんもの?

アメリカネバタ州ラスベガスに本拠を有すると説明する任意団体「日本餃子協会」のホームページが話題になっています。

このホームページのトップ画面は,更新する度に,印象的なキャッチフレーズとキャッチフレーズを効果的に見せる写真が変わり,話題になっています。

ところが,ラスベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」は,東京都墨田区に本拠を有する「日本餃子協会」から「日本餃子協会」の名称を使用しないように求められています。

この東京都墨田区の「日本餃子協会」は,ホームページで確認する限り,2010年10月に設立された団体で,「日本餃子協会」という名称を商標登録しています。

なお,商標権者は,合同会社日本餃子協会となっており,この会社と,東京都墨田区の「日本餃子協会」との関係まで明らかではありません。

商標権は,登録の際に商品や役務を指定して登録し,権利が及ぶ範囲は同一あるいは類似する商品,役務となります。

そして,合同会社日本餃子協会が有する登録商標の指定役務を確認すると,「飲食物の提供,飲食物の提供に関する情報の提供,飲食物の提供に関する指導,助言,飲食物の提供の契約の媒介又は取次ぎ」となっています。

他方,ラスベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」の目的をホームページで確認しますと,「日本全国のご当地餃子や,餃子をキーワードに発展を目指す地域や団体と繋がり,餃子に関する情報発信の窓口となる運営をしています。」とされており,合同会社日本餃子協会が有する登録商標の指定役務と同一,少なくとも類似するといえます。

それでは,ラスベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」は,合同会社日本餃子協会の商標権を侵害しており,使用ができなくなるのでしょうか。

本件は,非常に様々な問題が含まれています。

まず,ラスベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」の本拠が本当にラスベガスに存在する場合,日本の商標法が及ぶのかという問題があります。
日本の法律は,当然のことながら日本国内にしか効力が及ばず,合同会社日本餃子協会の商標権はアメリカには及びません。
但し,アメリカに居住する人や会社が日本で行う行為については,日本法の対象となり,日本の商標権も及びます。

では,本件のように国境と無関係なインターネットの世界では,どのように考えることになるのでしょうか?
インターネットの世界では,発信者の本拠がどこであるかということよりも,ホームページが誰を対象にしているかということが重要になります。

多くの国で使用されている英語であればな何人を対象としているのかという特定が困難ですが,日本語の場合には基本的に日本人を対象としており,日本において閲覧されること多いと思います。

特に,ラスベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」のホームページは,日本国内の日本人を対象としていることを示す内容となっていますので,対象者の判断は容易といえるでしょう。

このことから,ラスベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」のホームページは,ラスベガスから発信しているという理由で,日本の商標権の対象外となることはないように思います。

次に非営利事業に使用した場合に商標権の侵害になるのかという問題がありますが,一般的には非営利事業に使用した場合にも商標権侵害になると考えられています。

さらに問題となるのが「先使用権」といわれるものです。

商標法32条では,「他人の商標登録出願前から,不正競争の目的なく,商標登録出願がなされたのと同一または類似の指定商品・指定役務について,同一または類似の商標を使用していた結果,その商標登録出願の際に,現にその商標が自己の業務にかかる商品または役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されているときは,先使用権として,継続的にこれを使用することができる権利が認められる」とされています。

そこで,ラスベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」のホームページを確認すると2011年9月に開設されており,仮に,それ以前から活動を行っていることも予想されます。
他方,合同会社日本餃子協会の商標権は2011年12月13日に出願されており,商標登録出願前から使用しているという先使用権の要件が充たされています。

また,スベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」は複数のマスコミから取材を受けていること,多くの方に知られるにいたっていることから,現在においては「需要者の間に広く認識されている」といえますが,出願前からこの要件が充たされているかということが問題となります。

仮に,不正競争の目的が認定されず,出願時に「需要者の間に広く認識されている」と判断されると,ラスベガスに本拠を有すると説明する「日本餃子協会」は,「日本餃子協会」という名称を使用し続けることができることになります。

最後に,合同会社日本餃子協会が「日本餃子協会」という商標を使用しているのかということが問題となります。
東京都墨田区の「日本餃子協会」のホームページの運営主体は必ずしも明らかではなく,合同会社日本餃子協会ではない可能性があります。
仮にそうであると,合同会社日本餃子協会が他に使用している例がないとなると,「日本餃子協会」という商標を使用していないことになり,将来,不使用取消審判により商標権登録が取消しになる可能性もあります。

なお,単に使用していないことは,商標権侵害という場面でみるときには,原則的に問題になることはないのですが,将来登録を維持するという観点からは問題をはらんでいるといえるでしょう。

いずれにしましても,「日本餃子協会」両者の今度の動きについては注目したいと思います。

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