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STAP特許取下げか?

理化学研究所の改革委員会(外部有識者で構成)が理化学研究所に対して,STAP細胞の作製法に関する特許出願の取下げを求めることになるようです。

STAP細胞の作製方法に関する発明は,各発明者が所属する理研,米ハーバード大(付属の病院),東京女子医大の共同出願により,特許協力条約(PCT)に基づき米国に対して特許出願が行われていました。

この特許協力条約に基づく出願はPCT出願といい,特許協力条約加盟国の複数の国において特許権を取得したい場合に行う国際出願の方法の一つです。

PCT加盟国の一国に出願しておけば,この出願日がPCT加盟国全ての国(140か国以上)における出願日として取扱われ,最初に出願した日から30ヶ月の期限が満了する前に,権利を取りたいPCT加盟国が認める言語に翻訳した翻訳文をその国の特許庁に提出すると,各国の国内手続に移行させることがきでます。

なお,理研等は,PCT出願に先立ち,米国特許法第111(b)項に基づく仮出願を行っています。

この仮出願という制度は,後に通常の出願をすることを前提として仮にする出願する制度であり,出願時にクレームを設定しておく必要はありません。なお,実施可能要件は必要とされていますので,ラボノートなどの簡単な書類で出願を行うと,後日出願の効果が否定されることになりますので注意が必要です。

仮出願を行った場合,仮出願から12ヶ月以内に通常の出願,あるいは,通常の出願への変更要求を行うと,仮出願をした日を基準に出願の効果が認められることになります。

理研等は,2012年4月24日にアメリカにおいて仮出願を行い,2013年4月24日にアメリカにおいてPCT出願を行っています。

この結果,PCT出願の国内移行手続を行う期限は,2014年10月24日ということになります。

ところで,今回の出願が,小保方晴子氏などの研究者ではなく,理研,ハーバード大,東京女子医大の共同出願という形で行われたのは,日本の大学では職務発明の予約承継が行われていたからであり,米国の大学では,そもそも大学自体が発明者であると取扱われているからです。

研究者がその職務として行った発明は職務発明と呼ばれ,職務発明につき特許を受けることができる権利は,日本では発明者に,米国では所属している大学に帰属すると定められています。

ですから,米国では大学が出願を行うにあたり何の問題もありませんが,日本の場合には,発明者から特許を受ける権利を譲受ける必要があります。

ただ,ほとんど全ての大学では,職務発明規定などで,予め特許を受ける権利を発明者から譲受けることを定める規定が設けられており,特許出願を行うことができるのは大学側とされています。

この職務発明規定による予約承継において問題となるが,特許を受ける権利を譲受けたことにより支払う対価です。

日亜化学事件のように,職務発明が結果的に莫大利益をもたらした場合には,成果報酬として多額の対価を支払わなければならない可能性があります。

現在の特許法では,「契約,勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には,対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況,策定された当該基準の開示の状況,対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して,その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。」(35条4項)と定められており,規定を定めるところから対価の支払いを定める過程まで,従業員(今回の場合では研究者)が積極的に関与し,意見を述べる機会等が与えられている場合には,成果報酬として相当な金額より低額であっても,そのことだけを理由として追加の対価の支払いを求めることができないとされており,法に基づく職務発明規定が存在する場合には,日亜化学事件のようなリスクは回避することができるといわれています。

cont_img_62.jpgところで,理研の改革委員会は,理研に対して特許出願の取下げを求めていますが,今回の出願は3大学による共同出願であるため,理研だけの判断でPCT出願を取下げることができず,米ハーバード大あるいは東京女子医大が取下げに同意しなければ出願された状態が維持されます。

なお,現在の日本国内の雰囲気を考えると,東京女子医大の同意は取付けることはできたとしても,米ハーバード大の同意を取付けには困難が予想され,この同意が得られないために取下げが行われないことも十分に考えられます。

他方で,共同でPCT出願が行われた場合,特許権を取得したいと考える各国での国内移行手続についても共同出願人全員の同意が必要になりますので,理研の同意がない限り,米国を含めたいずれの国においてもPCT出願を各国の出願手続にのせることができません。

仮に,理研において行われるSTAP細胞の作製方法に関する検証が2014年10月24日までに結論がでない場合には,理研は国内手続移行に同意しないでしょうから,期限経過により出願は取下げられたものとみなされます。

そして,このような事態に至った場合は,大きな経済的効果が期待できる発明について特許権を得る機会を奪われたとして,米ハーバード大が米国で理研を訴えるということも考えられ,米国で訴訟を行うとなると日本では考えることができない訴訟費用の負担を余儀なくされる可能性があります。

理研は,更なる紛争,追加費用の負担を回避することを考えると,PCT国内移行手続に関する準備期間も考慮して一年以内には結論を出す必要があるのではないかと思います。

個人的には,可能な限り早急に結論を出し,STAP問題を収束させてくれることを期待しています。

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