弁護士視点で知財ニュース解説

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テスラ社が特許権不行使を宣言

電気自動車(EV)ベンチャー,米テスラ・モーターズは,「電気自動車技術の発展に貢献することになると信じている。だからこそ決断に至った」と説明した上で,200件を超えると言われる同社の特許権(出願中の発明も280件程度あると言われています。)を行使しないことを宣言しました。

テスラ社が特許権不行使を宣言した背景には,EV車の充電時間が長いこと,充電スタンドの普及が進んでいないことが挙げられますが,充電時間の問題はテスラ社の努力で改善しつつあるものの,充電スタンドの普及にはテスラ社のみの努力では解決しない問題であると言われています。

テスラ社の特許権不行使の狙いは,EV車に本格参入する企業を増やし,世界的に充電スタンド普及させるところにあると言われています。

法的な側面で注意をしなければならないのは,テスラ社は,自社の特許権を放棄したのではなく,特許権を維持した上で権利行使を留保すると宣言している点です。

形式的に考えるならば,テスラ社としては,他社が特許権を実施した後に方針を転換し,特許権を行使してライセンス料の支払いを求めたり,他社による実施を差し止めることができる余地があります。

このような特許権行使の可能性を完全に絶つためには,法的には特許権を放棄するという方法があります。
しかし,テスラ社は,特許権を放棄したのではなく,単に特許権を行使しないと宣言しただけです。

それでは,今回のテスラ社の特許権不行使宣言を信用してテスラ社の特許権を実施した場合,その企業は,テスラ社からライセンス料の支払い,実施そのもの差止め求められた場合に,これに応じなければならないということになるのでしょうか。

仮に,テスラ社が企業方針を転換し,特許権不行使宣言を撤回した場合にライセンス料の支払いや,時には事業からの撤退を余儀なくされるということであれば,テスラ社の特許権を実施することができず,テスラ社の宣言そのものが無意味ということになります。

アメリカ法にはestoppel(エストッペル)の法理というものが存在し,一方の自己の言動(または表示)により他方がその事実を信用し、その事実を前提として行動(地位、利害関係を変更)した他方に対し、それと矛盾した事実を主張することが禁止されています。

このような考え方は,日本においても採用されており,日本では禁反言の原則と呼ばれています。
民法1条2項には,「権利行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。」と定められており,これは信義誠実の原則と呼ばれています。そして,日本における禁反言の原則は,この信義誠実の原則の派生原理として存在すると考えられています。

このような考え方は欧州においても採用されており,近代法を採用する国においては存在する原理であると言っても過言ではありません。

禁反言の原則を前提に考えた場合,テスラ社が特許権不行使を宣言しておきながら,後日,特許権実施者に対してライセンス料の支払いや実施の差止めを求めた場合,禁反言の原則に基づき請求が認められないということになると推測します。

しかし,テスラ社が具体的にどのような経過,意図で特許権不行使を宣言したのか,特許権不行使にあたり何らかの条件が付されていないか等の確認を行うことなく,漫然と報道内容を信用してテスラ社の特許権を実施するのは非常に危険です。

テスラ社の特許権の実施を検討する場合には,同社に確認を行い,同社との間で合意書を作成しておくべきであると考えます。

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