米紙「ハフィントン・ポスト」によると,ウィキペディアとイギリス人野生動物写真家David Slater氏が,サルの自分撮り写真の著作権をめぐって争っているようです。
両者の紛争が発生した経緯は,以下のとおりです。
David氏は,インドネシアでオナガザル科マカク属のサルの写真を撮っていたところ,サルがDavid氏のカメラを取って自分の写真を撮り始めたそうです。
そして,David氏は,サルが自分で撮影した写真をネットにアップロードしたところ,その写真が人気を集めました。
ウィキペディアは,Davidがアップロードした写真を資源共有サイトに収録したところ,David氏は,ウィキペディアに対し写真の削除を求めたうえで,写真の著作権使用料の支払いを求めました。
ウィキペディアは,当初,「技術の角度から言えば,サルの自分撮り写真だから著作権はサルにあり,David氏に帰属しない」と主張していましたが,その後,「真剣な考慮と研究を経て,写真はサルのものではなく,誰も著作権を所有せず,公共資源として無料配布できる」と主張するようになりました。
そもそも,著作権などの財産権やあらゆる権利を享有することができる主体(法律用語では,「権利主体」といいます。)は,人だけです。
このような考え方は,日本でも,アメリカでも同様であり,サルが著作権を権利主体となることはありませんので,ウィキペディアが主張を改めたのは当然のことです。
それでは,サルが撮影した写真に著作物性が認められるのでしょうか。
そもそも,著作物とは,「人」が思想,感情を表現したものであるためサルが撮影した写真に著作物性が認められず,このことも日本とアメリカで違いがありません。
法的に評価すると,サルが撮影した写真は,機械が自動的に撮影したものと何ら異ならず,そもそも著作権法によって保護される対象ではないのです。
ところで,人が撮影した写真であっても,撮影された写真の著作物性が争われることが頻繁にあります。
特に近時では,写真機の性能が進歩しており,撮影技術とは関係なく意図する写真を撮影することができるようになっています。
つまり,人が創意工夫を凝らして人に見せることができる写真が出来上がっているのではなく,写真機がその写真を生み出しているという側面があり,人の思想や感情が表現された写真は限られているといえます。
裁判においても写真の著作物性が争われることが度々あります。
写真は,被写体の選択,組合せ,配置,構図,カメラアングルの設置,シャッターチャンスの捕捉,被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等),陰影の付け方,色彩の配合,部部分の強調・省略,背景等の諸要素を統合して表現されるものです。
そして,これら符号的な要因で表現された写真に人の思想や感情が表現されていなければならないのです。
東京地裁平成10年11月30日判決では,版画をできるだけ忠実に再現することを目的として撮影された版画の写真について著作物性が否定されています。
他方,東京地裁昌62年7月10日判決では,タレントのブロマイド写真について,被写体のもつ資質や魅力を最大限に引き出すため,被写体にポーズをとらせ,背景,照明による光の陰影あるいはカメラアングル等に工夫を凝らすなどして,単なるカメラの機械的作用に依存することなく撮影者の個性,創作性が現れているとして著作物性が肯定されています。
また,仙台高裁平成9年1月30日判決では,職業的写真家ではない古代研究家が山中で古代遺跡と信じる石垣を撮影した写真について,撮影者の創意工夫が現れているとして著作物性が肯定されています。
インターネットでの商品販売が盛んになり,自社の商品写真が複製されて使用されているという主張を頻繁に耳にするようになりました。
商品写真は,現実の商品をきるだけ忠実に再現し,購入を検討している者が商品の外見を的確に把握することを目的とした写真であり,東京地裁平成10年11月30日判決の基準を形式的に適用するならば,著作物性が否定されるとも考えることができます。
ところが,知財高裁平成18年3月29日判決は,商品写真につき,商品を紹介する写真として平凡な印象を与えるものであるとの見方もあり得るが,被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,光線・陰影,背景等にそれなりの独自性が表れているということができるとして,商品写真の著作物性を肯定しました。
ただし,上記判決では,問題となった商品写真の著作物性の創作性が微小なものであり,問題となった商品写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するとも判示しています。
知財高裁で問題となった商品写真は,非常にごくありふれた商品写真であり,この判決が下される以前であれば多くの専門家が著作物性を有しないと判断するような類の写真でした。
しかし,知財高裁は,そのような商品写真にも著作物性を肯定し,いわゆるデッドコピー(そのままコピーして利用)のような事例にのみ複製権侵害を認めると判示しています。
このような裁判例が存在する以上,他人のホームページに掲載された商品写真をそのままコピーして利用する行為は著作権侵害の可能性があるものとして回避すべきです。