弁護士視点で知財ニュース解説

「平均的な手書きフォント」をつくるプロジェクト

ボールペンで有名なフランスのBIC社は,「普遍的な手書きフォント」をつくり出すべく,世界の人たちの手書き文字をネット上で募集しています。

自分の手書き文字をデータベースに送る方法は,サイトにあるアプリケーションを使用することになります。

文字を送るのは非常に簡単で,指で画面上をなぞるだけで手書き文字を送信することができるようになっています。

また,このサイトでは,自分の書いた文字が,世界の平均的な手書き文字と比較することもでき,文字の幅や高さが平均的な文字と比べてどの程度異なるかを確認することができ,また,送られてきたすべての文字を,性別,出身国別,世代別に見ることもできます。

驚くのが,世界中の方の文字を平均化すると均整の取れたきれいな文字になっている点です。

この平均化された文字を見ますと,にフォントとして使用することができるものと予想します。

ところで,今回の試みは,手書き文字が使用されることを承諾した上で送信していますので,そもそも法的に問題はありませんが,仮に,他人の手書き文章や文字を無断で使用した場合に,どのような問題が発生するのでしょうか。

一定程度のまとまりのある文章で,その文書に作成者の個性が表現されているのであれば,その文章は作成者の著作物ということになりますので,著作権侵害となります。

また,俳句は,短い言葉の表現であるものの,17文字の中で創作者の創意工夫が見て取れますし,独立した文芸作品として認識されていますので,一般的に著作物性が認められています。

そして,キャッチフレーズについても,東京地裁平成13年5月30日判決では,「ボク安心 ママの膝よりチャイルドシート」という交通標語の著作物性が認められました。

さらに,古文単語を記録するための語呂合わせについて,東京高裁平成11年9月30日判決では,「あさまし」と「めざまし」は「驚くばかりだ」という意味を覚えるための語呂合わせとして,「朝めざましに驚くばかり」という非常に短い文書の著作物性が認められています。

他方,YOL記事の「マナー知らず大学教授,マター本海賊版作り販売」という記事見出しについては,知財高裁平成17年10月6日判決において著作物性が否定されています。

短い文章の著作物性は,様々な場面で問題になりますが,著作物性有無の判断は,キャッチフレーズであったり,語呂合わせ,記事見出しにおける表現の選択の幅がどの程度あるのか,その中でどの程度創意工夫が行われているのかということと関係します。

当然のことながら,表現の選択の幅が狭い場合には創意工夫の程度が高くなければなりませんし,表現の選択の幅が広い場合には,創意工夫の程度がそれほど高くなくても著作物性が認められることになります。

このことから,文章が短くなればなるほど,表現の選択の幅が狭まりますので,高度な創作性が求められることになるのです。

そして,文章を究極的に短くしていきますと単語になり,さらに短くしていきますと文字ということになります。

この単語や文字そのものは,基本的には,意思伝達手段として万人共通の財産ですので,特定の人が独占することはできないという考え方があります。

そして,当然のことながら,単語や文字を著作権法により保護するということはできません。

それでは,書体(タイプフェイス)についてはどうでしょうか。

タイプフェイスは,その使用目的に応じて様々なものが存在し,一つのタイプフェイスを開発するにあたっては,多額の費用や膨大な時間,労力が費やされることもあります。

また,タイフェイスは高額な値段により取引されることもあります。

このようなタイプフェイスは著作権法により保護されないのでしょうか。

最高裁平成12年9月27日判決では,文字は万人共有の財産であるという考え方を基本にして,単なる創意工夫を凝らしたところで著作物性は認められず,それが本来の用途とは別に「それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならない」と判示されています。

この最高裁の判例を前提とする限り,書家が軸に描いた文字などは美術鑑賞の対象となるので著作物性が認められるが,工業的に創作されたフォントについては著作物性が認められず,著作権の保護の対象にはならないということになります。

先ほども説明したとおり,フォントの開発には費用,時間,労力を費やされており,取引の対象にもなっており,何らかの法律で保護すべき対象であることには間違いありません。

そして,随分以前から意匠法によってフォントの保護を図ろうとする動きがあるものの,未だ立法には至っていません。

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