弁護士視点で知財ニュース解説

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職務発明規定  中小企業に配慮

特許庁は,従業員が職務中に行った発明(職務発明)を原則企業に帰属させ,企業には職務発明規定を設けることを義務付ける方向で特許法改正の検討を行っていますが,中小企業が職務発明を従業員に帰属させる選択をする余地を残すことも検討しているようです。

日本商工会議所の幹部の説明では,中小企業の8割が職務発明に関する規定を定めていないとのことであり,かかる現状を踏まえての検討であると思います。

そもそも,特許庁に対する特許出願は年間約33万件あり,中小企業による出願は3万件から4万件と言われています。

そして,約400万社あるといわれる中小企業のうち,3万社足らずが特許出願を行っているだけであるといわれています。

つまり,中小企業のうち99%以上にとって職務発明規定を設ける必要がないという試算になるわけです。

多くの中小企業にとって職務発明に関する特許出願を行ったことがないということは事実でしょうが,「ものづくり」を行う企業にとって職務発明が無関係であるというわけではありません。

そして,職務発明を従業員に帰属させる選択を行い,その結果として従業員が特許権を取得するということになったとしても使用者である企業は,無償で特許権を実施することができる権利が認められているため,事業を行なえなくなるということもありません。

しかし,従業員が特許権を取得した場合,従業員が競業社に対して特許権の実施を認め,対価を得ることを認めなければならなく,競業社に対する技術的優越性を維持できないだけでなく,競業社が職務発明を基に更なる発明を行った場合には,技術的な競争力を喪失するということにもなります。

また,従業員に職務発明が帰属させた上で企業が当該特許を取得したい場合には,従業員に対価を支払い,出願することができる権利,あるいは特許権を取得するということになり,交渉次第では特許権を取得できない,あるいは高額な対価を支払わなければならないということになります。

現在の特許法において,就業規則等により職務発明を譲り受けることを規定しておくことを認める(予約承継),今回の改正で原始的に企業に職務発明の帰属を認める,そもそもの趣旨は,基本的には給料を支払った上で労働力を提供してもらい,その中で発明を行ったというのであれば,その発明は企業に帰属させるべきであるというところにあります。

そして,企業が職務発明により利益を得ることができる,つまり職務発明を行った従業員の貢献により利益を得ることができる場合に,設定されていた給料が不釣り合いになるために,給料とは別に相当対価を支払うというのが基本的な考え方です。

個人的には,この考え方自体は誤りではないと思いますし,このような考え方を行ったところで,従業員の発明意欲が低下することもないと考えています。

重要なのは,職務発明により企業が利益を得ることができた場合に,当該職務発明を行った従業員をどのように処遇するかということであり,職務発明を行った従業員に対する処遇についてどのようなルールを設けておくか,そのルールに基づいて実際の処遇をどのように決定するかという点です。

そして,職務発明を行った従業員に対する処遇についてのルールや,実際の処遇決定の過程に,発明を行うことになる従業員を関与させ,実質的に従業員の意見を反映させるということが重要になるのです。

今回の特許法改正は,職務発明を企業に帰属させることを原則とすることで,従業員に対する処遇についてのルールや,従業員の意見を反映させる制度を企業に義務付けるというものですから,職務発明に関する特許出願の経験がある企業は当然のこと,そのような経験がない企業であっても,企業の競争戦略を考える上で非常に重要なことであると思います。

今回の特許法改正を契機に,職務発明について実のある議論が行われることを期待しています。

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