サントリーホールディングスは,同社のノンアルコールビールに関する特許権が侵害されているとしてアサヒビールを訴えた訴訟の第1回弁論手続が,平成27年3月10日,東京地裁において行われました。
サントリーの特許権は,ビールテイスト飲料であっても飲み応えが得られることを目的とした「エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である」ことを特徴とする22の特許請求項からなるものです(特許第5382754号)
アサヒの発表によると,サントリーは,平成25年10月7日にアサヒドライゼロが上記特許権を侵害するとの問合せを行い,アサヒにおいて検討したところ,上記特許権は無効理由を有する特許権であると判断し,それを前提とした交渉を行ってきたものの訴訟を提起されるという事態に至ったようです。
アサヒの主張は,特許訴訟において無効の抗弁といわれるもので,アサヒドライゼロのエキス分,pH及び糖質量が上記した数値の範囲のものであっても,そもそもサントリーの特許権は無効理由を含む特許権であるため特許権の行使が認められないというものです。
サントリーの特許権は,エキス分,pH及び糖質量により特定された特許権であり,一般的に数値限定特許といわれるものです。そして,サントリーが特許権を取得する以前から,一定のエキス分,pH及び糖質量によって構成されたビールテイスト飲料(ノンアルコールビール)は多数販売されており,これら既存のノンアルコールビールを前提に上記した数値限定を加えることは,業者であれば容易であるとの主張も一定の理由があるようにも思えます。
なお,アサヒは,特許訴訟において無効の抗弁を主張するとともに,必要に応じて特許庁に対してサントリーの特許権について無効審判の申立てを行ない,特許権そのものを無効にすることも検討しているようです。
今回のサントリーとアサヒの特許訴訟は,両社が真っ向対立する状態になっていますが,このような対立は,ノンアルコールビール市場の現状が大きく影響しているようです。
ノンアルコールビールは,2009年発売のキリンビール「フリー」を先駆けに,サントリーやアサヒなど大手が相次ぎ参入しました。サントリーとアサヒは,糖質・カロリーゼロの商品を手掛け,これらの商品が需要者の間で受け入れられています。
ビール系飲料は10年連続出荷量が減少しており,2008年には4.8ケースの出荷量があったものが2014年には4.2億ケースあまりにまで縮小しています。
他方,ノンアルコールビールは2008年には250万ケースの出荷量に過ぎなかったものが2014年には1500万円ケースの出荷量に増加しており,サントリー,アサヒともに重視する市場になっています。
特に,アサヒは,ノンアルコールビールの業界トップを目指しており,アサヒドライゼロ,この3月に発売されたアサヒドライゼロフリーは基幹商品となっており,容易にサントリーの主張を受け入れることができない状況にあります。
アップルとサムスンとの特許訴訟合戦等,海外の大手企業同士が市場の覇権をかけた特許訴訟を目にすることがよくありますが,日本の企業同士が市場の覇権をめぐり訴訟において真っ向対立するというのは,それほど多くはありません。
日本の市場は縮小傾向にあり,各社ともしのぎを削っている状況にあり,この傾向は,今後より一層激しくなることが予想されます。
その過程で,サントリーとアサヒのように業界を代表する日本の企業同士が特許訴訟を繰り広げるという事例も増加するのではないでしょうか。