弁護士視点で知財ニュース解説

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洋服デザイン模倣、通販運営会社の代表ら逮捕へ? 

cont_img_39.jpg産経WESTの報道によりますと,大阪府警は,若い女性向けの洋服のデザインを模倣して販売していたファッション通販サイトを運営する衣料品販売会社(大阪市西区)の代表取締役などを,不正競争防止法違反の疑いで逮捕する予定であるとのことです。

不正競争防止法においては,不正の利益を得る目的で販売してから3年以内の商品形態を模倣した商品の販売等を行った場合,不正の目的をもって他人の商品などの出所表示と類似する表示が付された商品の販売等を行った場合には5年以下の懲役,500万円以下の罰金,あるいはこれらの併科という刑罰を科されることになります。

報道で指摘されているとおり,不正競争防止法は意匠法に基づく登録や商標法に基づく登録が必要なく保護され,違反については民事訴訟で争われることが多く,特に,商品形態の模倣や他人の出所表示と類似する表示の使用について警察が捜査を進めるというのは非常に珍しいのではないかと思います。

不正競争防止法が禁止している商品形態の模倣は,全ての他人の商品形態にあてはまるものではありません。
そもそも,同法が商品形態の模倣を禁止する趣旨は,費用や時間を費やして開発した商品については3年間という期間を限定して優先的に投下資本の回収を認めるところにあります。

この結果,費用や時間を費やしたと評価することができない場合,すなわち,従前から存在する商品には存在しない新たな部分が存在しない限り商品形態は保護されないというのが裁判所の考え方です。

ですから,商品形態模倣の裁判において訴えられた側は,様々な商品を証拠として裁判所に提出し,問題となっている商品には不正競争防止法よって保護されるべき新たな部分が存在しない,あるいは新たな部分が存在したとしても当該部分については模倣を行っていないという争いかたをします。

特に,洋服の場合は,形状や柄については類似する商品が過去から多数存在することもあり不正競争防止法の商品形態模倣が認められにくい分野であるといえます。

過去に,「イッセイミヤケ」のプリーツプリーツが不正競争防止法によって保護される商品形態と認められるかということが裁判所において争われましたが,プリーツプリーツの製造方法とその製品が特許出願されており,他に類似する衣類のデザインが存在しなかったことが影響して商品形態と認められたことはありました。

しかし,私が知る限り,衣類について商品形態性が認められたのはプリーツプリーツだけではないかと思いますし,プリーツプリーツの他にない特徴を前提にしますと,全ての衣類を対象に上記裁判例をあてはめることはできません。

私も衣類や靴などで商品形態の模倣を理由に訴訟の提起を相談されることが少なくありませんが,類似の商品の存在を前提に断念せざるを得ない場合が圧倒的に多い状況です。

他方,模倣されたデザインに共通的に使用されているブランド名やロゴマークをまでも模倣している場合,ブランドで統一的に使用されている共通の柄などが存在し,それが需要者の間で周知になっている場合には,デザインの模倣ではなく他人の出所表示に類似する表示を使用したという理由で不正競争防止法違反となります。

ただし,柄などのデザインをとらまえて出所表示であると主張するために,当該柄などのデザインが他の商品には存在せず,特定の者の出所表示としての特徴(裁判などでは特定性と呼ばれることがあります。)が必要になるのですが,衣類の柄などのデザインで他の衣類には存在しないものを探し出すことは困難な場合が多いといってよいと思います。

結果的には,出所表示に関しても,他の商品にはない特徴的な部分(当該商品のみ採用している部分)が存在し,さらに,それが繰り返し使用されりることによって需要者の間で周知になった部分というものが存在しなければならず,商品形態模倣の場合と同様のジレンマがあり,文字によって表現された出所表示やロゴマークについて類似したものを使用しない限り,不正競争防止法違反を主張することが困難な場合が多いといえます。

報道においては,デザインの模倣ということがクローズアップされていますが,大阪府警の捜査の力点は,デザイン,ロゴ,ブランド名などによって形成されている他人の出所表示に類似する表示を使用しているという点に焦点をあてた捜査を行っているのではないかと考えています。

いずれにしましても,類似の商品が氾濫する若い女性を対象とした衣類について,警察がどのような捜査を行っているのか,また,どのようにして刑事裁判に漕ぎつけるのか非常に興味があるところです。

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