弁護士視点で知財ニュース解説

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東京五輪エンブレム問題

cont_img_53.jpg佐野研二郎氏がデザインした2020年東京オリンピックのエンブレム問題ですが,大会組織委員会がエンブレムの使用中止を決定しました。

組織委のエンブレム決定により,既に,国際オリンピック委員会(IOC),日本オリンピック委員会(JOC),東京都,スポンサー企業が佐野氏のエンブレムの使用を開始している関係で商品廃棄を含むエンブレム撤去費用は膨大なものになるものと予想され,今後,損害賠償問題に発展する可能性が高いと思います。

今回のエンブレム問題は,リエージュ劇場(ベルギー)が,同劇場のロゴを対象とした著作権が侵害されたとして,国際オリンピック委員会を被告として訴訟を提起したことで顕在化し,組織委による使用中止決定にまで至りました。

なお,リエージュ劇場は,エンブレムの使用中止が決定された場合であっても,IOCが盗作であったことを認めない限り再び使用される可能性があること,既に使用していたことで著作権侵害の事実が認められることを理由に,訴訟手続を継続すると発表しています。

リエージュ劇場が著作権侵害を理由に訴訟を提起した理由は,リエージュ劇場のロゴがIOCに加盟している全ての国において商標登録を行っていないからであると推測します。
本来,ロゴなどは商標登録を行うことで法的保護を図るのが一般的ですが,商標権は登録を行った国のみで権利が生じるという限界が存在します。
この結果,IOC加盟国全てにおいて商標登録を行っていない限り,IOCによるロゴ使用の全てを訴訟の対象とすることができないという問題が発生します。

他方,著作権については,多くの国で登録手続を行っていなくとも,著作物を創作したという事実だけで著作者あるいは著作権者が法的保護を受けることができる(無登録主義)という特徴があります。
リエージュ劇場は,多くの国が採用する著作権の無登録主義に着眼し,敢えて著作権侵害を理由に訴訟を提起したのだと考えます。

それでは,リエージュ劇場が使用してきた「ロゴ」が著作権法によって保護される著作物ということができるのでしょうか。

リエージュ劇場のロゴは,アルファベットの「T」と「L」をモチーフとした比較的単純なロゴであると理解できます。

日本の裁判所の考え方を前提にすると,アルファベットを使用した「ロゴ」(著作権法としては装飾文字という捉え方をします。)は,出所やサービスの内容,質などを示す「ロゴ」本来の機能と離れて,独自に鑑賞の対象足りうると評価されない限り著作権法によって保護される著作物とは認められません。

「ロゴ」(装飾文字)の著作権法による保護に制限を加える理由は,万人共通の財産である文字の自由利用が過度に制限されることがないようにするという基本的な考え方が根底に存在するからです。

視点を変えてリエージュ劇場のロゴの著作物性について検討すると,問題となる「ロゴ」は,表現されたものを見る限り非常に単純と評価せざるを得ず,著作物と評価されるに足りる創作性が欠けるともいえます。

なお,リエージュ劇場のロゴは,様々なコンセプトを前提に完成に至るまで試行錯誤を尽くした上で完成されたものであろうと推測します。しかし,著作物性の判断においては,あくまで表現の結果(完成した「ロゴ」)を基準に判断することになりますので,創作の過程は創作性の判断に直接的に影響を及ぼすことはありません。

以上で説明したように,日本の裁判所の考え方を前提にする限り,リエージュ劇場のロゴに著作物性が認められることはなく,同劇場の主張は認められないということになると考えています。

そもそも,東京オリンピックのエンブレム問題は法律とは次元の異なるところで問題になっています。

今回のエンブレムは,東京オリンピックを象徴するシンボルであり,日本国民だけでなくオリンピックに参加する国の国民すべてに受け入れられる対象でなければならず,東京オリンピックのシンボルという重責を担うエンブレムについては,法的に問題があるか否かという次元で議論するものではありません。

今回のエンブレムは,国外でも大きく取り上げており,日本国内においても嫌悪感示す国民が少なからず存在する認識しており,東京オリンピックを象徴するシンボルとしての機能を果たし得なくなっています。

そうである以上,今回の組織委の決定は当然であると考えて良いのではないでしょうか。

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