Detective Comics(DCコミック)のヒーロー「バットマン」が使用する「バットモービル」のレプリカ版自動車の製作が著作権侵害にあたるかにつき争われた米国第9巡回区控訴裁判所は一審判決を支持し,レプリカ版自動車の製造を禁止する判決を下したと報じられています。
一審において裁判所は,バットマンの乗り物はただのクルマという存在を超え,物語におけるキャラクターの1つであるとの意見を示し,レプリカ版自動車の製造を禁止する判決を下していました。
この問題を日本の著作権法に基づいて考えてみたいと思います。
まず,コミック漫画の登場人物の容姿については,各コマごとに絵画の著作物と認められているため,各コマに描かれた登場人物の絵をそのまま使用した場合には著作権の一つである複製権侵害にあたります。
そして,各コマに描かれた登場人物の絵に基づいて,各コマには描かれていない「ポーズ」で登場人物を使用すれば,もとの登場人物と判断できる限り著作権の一つである翻案権侵害にあたりますし,仮に,ポーズに変更を加えていたとしても複数のコマに登場する人物を前提にした場合に創作の余地がないということになれば複製の範囲に留まると判断され複製権侵害と評価される可能性もあります。
このようにコミック漫画登場人物の絵を使用した場合には,複製権あるいは翻案権侵害となるため,キャラクターグッズを製作する場合に著作権者(現実には著作権を管理している管理会社)の許可を得る(現実にはキャラクター使用許諾契約を締結)必要があるのです。
これが世間で言われるところの「版権ビジネス」が成立する法的根拠です。
このような法的な考え方は,コミック漫画の各コマに描かれている対象が登場人物であるか車であるかによって変わることがありません。
ただし,登場人物の場合には,著作者の個性が表現された登場人物ばかりが描かれているためコマに表現された登場人物の著作物性が問題になることはほとんどありませんが,コマに描かれている対象が自動車の場合には,自動車の絵に多くの自動車とは異なる個性が表現されているか,創作された絵ということができるかということが問題になります。
この点,コミック漫画のコマに描かれている「バットモービル」は,他に存在しない独自の自動車として表現されているため,絵画の著作物としての創作性が否定されることはないと思います。
なお,自動車のデザインが意匠登録されていることがありますが,意匠登録されている自動車の絵をコミック漫画で使用した場合に意匠権を侵害することになるのではないかと思う方もおられるかもしれませんが,意匠権は,登録意匠と同一あるいは類似する物品に同一あるいは類似する意匠を用いたときのみに権利侵害が成立するため,コミック漫画で意匠登録されている自動車の絵を用いたとしても意匠権侵害にはなりません。
さて,著作物と認められる「バットモービル」を実車で表現することが著作権侵害になるかという問題についてですが,結論からいうと複製権侵害あるいは翻案権侵害にあたるということになります。
この問題と類似する問題としてコミック漫画で表現されているロボットをフィギュアのような三次元で表現する行為が認められるかという訴訟が日本でも提起されることになります。
日本の裁判所は,基本的に,二次元で表現された絵を三次元で表現する際に,創作が加えられている場合には翻案権侵害にあたり,創作された部分が全く存在しない場合には複製権侵害になると考えています。
コミック漫画に登場するロボットを例に説明すると,ロボットが登場するコマ数が多数存在し,正面,背面,左右横麺,上面,下面から見たロボットの容姿が表現されている場合には二次元で表現された絵をフィギュアのような三次元で表現する際に何らの創作も行われていないと評価され,著作権者(著作権管理者)の許可をえることなくフィギュアを製作した場合には複製権侵害ということになります。
他方,ロボットが登場するコマ数が限られており,下面や背面を表現したコマが存在せず,フィギュアを制作する者が正面,左右横麺の容姿を参考に創作したという場合には翻案権侵害ということになります。
コミックで表現されている「バットモービル」についても上記したロボットと同様に考えることができますので,複製権,翻案権侵害になると考えられることになります。
なお,コミック漫画のロボットを表現したフィギュアと「バットモービル」を表現した実車とは,前者が主に鑑賞を目的として実用性がないのに対し,後者が実用性も兼ね備えているという点に違いが存在します。
しかし,著作物の表現の対象は,実用性を有するものも含まれます(美術工芸品は代表例といえるでしょう。)ので,本件に関して言えば,実用性の有無は著作権侵害の判断に影響することはありません。
以上のように,日本的に考えるならば,「バットモービル」について「キャラクター」という概念を持ち出すことなく,純粋にコマに表現された「バットモービル」の絵が著作物性を有するか否かということを検討すればよく,著作物性が認められると評価された場合には,先に説明した基準で複製権侵害あるいは翻案権侵害と判断されると考えればよいわけです。
二次元で表現された絵を立体的に表現する際の著作権問題については,著書「プロダクトデザイン保護法」(日本加除出版)において詳細に説明していますので,参考にしてください。