弁護士視点で知財ニュース解説

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特許権と独占禁止法の関係

cont_img_83.jpg生産現場へのIoTの導入,通信機能を持つ製品開発において通信技術の活用は不可避です。この結果,従前であれば通信とは全く関係のなかった産業が,通信に関する標準規格を使用するようになり,この傾向は,今後も拡大していくことになります。

このような状況において問題となるのは,以前から通信に関わってきた特許権者の保護とこれから生産現場にIoTを導入する,あるいは,通信機能を持つ製品を製造していこうとする通信分野に関して新規参入者といえる製造業者の保護との調整です。

そもそも,特許法は,特事業者に創意工夫を発揮させ,国民経済の発展に資するためのものです。 特許法の趣旨が尊重され,円滑な技術取引が行われることにより国民経済を発展させることが期待されています。 しかし,特許権者が,他の事業者による特許発明の利用を拒絶する,利用を許諾するにあたり許諾先事業者の研究開発活動,生産活動,販売活動,その他の事業活動を制限するようなことがあれば,自由競争が過度に制限され,国民経済の発展が阻害されることになりかねません。

特許法による保護の範囲を超えて特許権者が独占の利益を得ようとした場合に,それを抑制する法律が独占禁止法となるのです。

あらゆるモノがインターネットに接続されるIoT時代を迎え,通信技術とは無縁であった製造業者が通信技術を使用する必要が生じ,多くの製造業者に通信に関する技術が解放されなければなりません。 このような要請が強くなると,独占禁止法に基づく考え方が優先され,特許法により保護された特許権者の保護がないがしろにされる危険があります。

これからIOT時代を迎えつつある日本において,製造業者に対する通信技術の解放が強く訴えられているところですが,米特許商標庁元長官のデビッド・カッポス氏は,東京都内で開かれた国際シンポジウムにおいて,「競争法(日本の独占禁止法)の運用が強力すぎて,特許の力を弱めている」と訴えました。 同氏の発言は,利用者の保護が強く主張されるようになった日本の社会において,冷静な議論を行う上で非常に重要な発言であると受け止めています。

今回は,IoT時代を迎えつつあることを踏まえて,独占禁止法と特許法との関係について整理してみたいと思います。

独占禁止法では,特許法などの知的財産権法との関係について以下の規定があります。

「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」

独占禁止法は,あくまで「権利の行使と認められる行為」については適用しないと規定されているのであって,およそ「権利行使」とは関係のない行為は独占禁止法の対象となります。

また,外形上は「権利行使」に見える行為であったとしても,行為の目的,態様,競争に与える影響の大きさも勘案した上で,事業者に創意工夫を発揮させ,技術の活用を図るという,知的財産制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合は,実質的には「権利行使」とは認められず,独占禁止法の対象となります。

特許法等の知的財産権法との関係で独占禁止法が定める以下の行為が問題となります。

  • 私的独占(3条)
  • 不当な取引制限(3条)
  • 不公正な取引方法に関する規制(19条)

私的独占には,事業者が単独又は他の事業者と共同して競争相手を市場から排除する,新規参入を妨害して市場を独占しようとする「排除型私的独占」と事業者が単独又は他の事業者と共同して他の事業者の事業活動に制約を与えて,市場を支配しようとする「支配型私的独占」があります。

不当な取引制限には,事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い,本来,各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為があります。

不公正な取引方法は,自由な競争が制限されるおそれがある,競争手段が公正とはいえない,自由な競争の基盤を侵害するおそれがある行為で,取引拒絶,排他条件付取引,拘束条件付取引,再販売価格維持行為等が挙げられます。

技術の利用に係る制限行為については,私的独占又は不当な取引制限の観点からの検討のほか,不公正な取引方法の観点からの検討が必要になります。

また,独占禁止法が規制している行為の対象者は,単独の事業者だけでなく,共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体又はその連合体も対象となり,特許権との関係では「パテントプール」なども適用対象とされています。

例えばパテントプールを形成している事業者が、新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを合理的理由なく拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は,私的独占と評価されます。

また,ある技術に権利を有する者が、当該技術を用いて事業活動を行う事業者に対して、マルティプルライセンスを行い、当該技術を用いて供給する製品の販売価格、販売数量、販売先等を指示して守らせる行為や,製品の規格に係る技術又は事業活動を行う上で必要不可欠な技術の権利を有する者が、ライセンスの際に,代替技術を開発することを禁止する行為や,他の技術についてもライセンスを受けるように義務を課す行為は,技術の利用範囲を制限する行為として,私的独占と評価されます。

パテントプール,マルティプルライセンス,クロスライセンスにおいて,当該製品の対価、数量、供給先等について共同で取り決める行為や他の事業者へのライセンスを行わないことを共同で取り決める行為は,共同して、相互にその事業活動を拘束し又は遂行するものとして,不当な取引制限の観点から私的独占と評価されることになります。

また,技術を利用させないようにする行為、技術の利用範囲を制限する行為、技術の利用に関し制限を課す行為、その他の制限を課す行為については,不公正な取引方法として独占禁止法の規制の対象となりえます。

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