弁護士視点で知財ニュース解説

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「金魚電話ボックス」撤去問題

cont_img_39.jpg金魚の養殖が盛んな奈良県大和郡山市が平成25年から設置していた「金魚電話ボックス」が撤去されることになったという報道がされました。

「金魚電話ボックス」は,設置された当初,発想の斬新さやおもしろさが話題になり,マスコミにも取り上げられていました。

ところが,「金魚電話ボックス」の設置当初から,現代美術作家の山本伸樹氏から,同氏の著作権を侵害することを理由に抗議が行われており,昨年の12月には,同氏から,同氏の作品であることを明示して設置することが求められていたようです。

これに対し,「金魚電話ボックス」を管理していた地元の商店街は,山本伸樹氏の作品であることを明示した上で設置することに応じず,今回,撤去することを決定したようです。

山本伸樹氏は,約20年前に,電話ボックスを水で満たし,その中に金魚を泳がせるという作品を発表していたようで,今回の報道を受け,同氏の作品を確認しました。

そもそも,著作権によって保護される著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したもの」をいいます。 そして,著作物に求められる「創作性」は,高いレベルのものが求められておらず,個性が現れていればよいとされています。

山本伸樹氏は,金魚を泳がせる対象として,水槽ではなく電話ボックスを選択し,それに水を満たし,金魚を泳がせるという表現物を創り出したわけです。

私は,20年前の山本伸樹氏の作品を知らず,大和郡山市が「金魚電話ボックス」を設置したという報道を見て,ハッと思いました。 おそらく,私以外の多くの方も,私と同様に,斬新な発想だと思ったり,面白いと思ったのではないでしょうか。 そうであるからこそ,多くの報道が,大和郡山市の「金魚電話ボックス」設置を取り上げたのではないかと思います。

「金魚電話ボックス」を目にした後に,水槽の代わりに電話ボックスを使用しているに過ぎないと考えるのは,いわゆる「あと知恵」だと思います。

最初に,水槽の代わりに電話ボックスを使用するということを発送した,それを現実に表現したというところに,著作権法で求められる「個性の表現」が存在し,山本伸樹氏の作品は,著作物であると考えます。

山本伸樹氏が約20年前に創作した「金魚電話ボックス」が著作物であるとして,著作権の一つ複製権を侵害していると主張するためには,同氏の「金魚電話ボックス」に依拠していること,すなわち,同氏の作品を目にし,同氏の作品に基づいて複製したことが必要になります。

ここで,問題となるのが,山本伸樹氏の「金魚電話ボックス」の周知度です。 仮に,大和郡山市に「金魚電話ボックス」を設置した者が,山本氏の作品をしらなかった,同氏の作品に触れる機会がなければ複製権を侵害したことにはなりません。

ただし,山本伸樹氏は,平成25年に設置した直後から,自らの作品を示し抗議を行っていたようですから,少なくとも,同氏の作品を示された後に設置したものについては複製権を侵害することになります。

ところで,著作者には,著作物の公衆への提供に際し,自らの氏名を表示するように求める権利が認められています。 この権利は,氏名表示権といわれる権利で,山本伸樹氏が求めていたことは,この氏名表示権の実現でした。

大和郡山市に設置された「金魚電話ボックス」の撤去の決定は,個人的に残念な結果だと思いますが,独創性がないものを設置しつづけることはできないと判断したことについても理解できないではありません。

山本伸樹氏の「金魚電話ボックス」の著作物性が認められた場合,撤去を行っただけでは法的な問題が全て解決したということにはならず,少なくとも,同氏が抗議を行った後,設置した「金魚電話ボックス」の使用料の問題が残ります。

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