弁護士視点で知財ニュース解説

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デザイン保護法制の欠陥

intellectual_04.jpgあらゆるモノがインターネットに接続されるIOT(Internet of Things)化が進むと,商品が独立した個々の存在としてではなく,「情報の収取→情報の蓄積→情報の解析→処理」によって生み出される新たな「価値創出サイクル」における情報収取の役割を担う端末としての側面が強くなり,商品そのものの存在価値は相対的に低下するとともに,商品に対するデザインの価値も相対的に低下していくことになります。

この結果,自ずと,デザインの対象も端末である商品のみ向けられるのではなく,価値創出サイクル全体に向けられることになります。

しかし,現在の法律は,端末である商品のデザインは意匠法(一部のものは立体商標として商法により保護されることもあります。)や不正競争防止法,価値創出サイクルを構成する技術は特許法や不正競争防止法と完全なすみわけが行われており,価値創出サイクルをデザインとしてとらえて,それをデザインとして保護する法律は存在しません。

それだけではなく,端末である商品のデザインを保護する法律が十分に機能しているのかという点でも疑問が残るところです。

商品のデザインを保護する法律として,特許庁に出願して登録することを前提にデザインの保護を図る意匠法があります。 ところが,近年,この意匠登録出願の件数が減少傾向にあります。

意匠登録出願件数の減少は,商品に対するデザイン保護の要請が低下しているためではなく,デザイナーの意匠法に対する期待の減退にあるのではないかと推測しています。

意匠法は,意匠の対象となる物品を指定して出願し,登録されると指定した物品と同一あるcont_img_39.jpgいは類似の物品に対して,同一の意匠あるいは類似の意匠に対して権利が及びます。 物品が類似するか否かは,対比する物品の用途や機能によって判断することになり,それほど困難なことはありません。

しかし,意匠の類否判断については,意匠法では,「需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」と規定されており,デザイナーの視点ではなく需要者の視点で判断することが明確に定められています。

ところが,意匠法では,「美感」とは何かについて規定されていないため「視覚を通じて起こさせる美感」に基づいて判断すると規定されていても,何を基準に判断するのかがよく分かりません。

例えば,ある学説では,意匠法は著作権法の特別法であり,意匠法における「美」と著作権法における「美」とは同質のものであると説明しているものがあります。 しかし,著作権法は,文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作権者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的とする法律です。 他方,意匠法は,意匠の保護及び利用を図ることにより,意匠の創作を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とする法律です。

意匠法における「美」とは,産業の発展に寄与するものとしての「美」であり,文化の発展に寄与する著作権法における「美」とは異なる独自のものと考えるべきであると思います。 そして,意匠法における「美」については,現在の日本の産業の発展に寄与するものとしてどのようなものであるかを,政策的な観点から法律において定めるべきものと思います。

意匠法において,政策的視点に基づいた「美感」に関する定義規定が設けられていないために,類似する意匠か否か,つまり意匠権か及ぶか否かを事前に予測することが非常に困難になっています。

現在においても,意匠法の類否判断は,第三者が検証可能なように,意匠を言語的に分析(対比する意匠を,それぞれ基本的構成態様,具体的構成態様に分説して比較する。)する方法がとられています。

また,周知意匠や公知意匠との関係で,時間軸に沿った相対的な評価が行われています。

このような意匠の対比方法については,客観的なものとして確立されているのですが,「美感」が何であるのか不明であるために,最終的な結論が判断者(特許庁や裁判所)の感覚で行われているということを否定することはできないと思います。

そして,そのことが,我々に意匠の類否(意匠権の及ぶ範囲)の判断を困難にしているのだと思います。

「権利を取得したとしても,取得した権利が及ぶ範囲がよく分からない」ということであれば,権利取得意欲が削がれる(出願件数が減少する)のも無理はありません。

私も普段の業務で,「なぜ,この商品に意匠権が及ばないのか。」と説明を求められても客観的な基準に基づいて合理的な説明を行なうことができません。 このような状態であれば,新たなデザインを行っても特許庁に登録しようという意欲が削がれたとしても仕方ないと思います。

今後の新たなデザインの法的保護に関する議論を行う必要が当然にあるのですが,その前提として従前から存在する商品に対するデザインの保護についても改めて検討し直す必要があるのではないでしょうか。

 

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