弁護士視点で知財ニュース解説

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不正競争防止法の改正がビッグデータ流通に寄与するのか

cont_img_46.jpg不正競争防止法の改正が閣議決定され,国会での審議を経て法改正が行われる予定になっていますが,改正されますと,「限定提供データ」という新たな定義が設けられ,「営業秘密」と同種の保護が与えられることになります。

このような不正競争防止法の改正の背景には,「データ・オーナーシップ」の考え方を前提にした情報の公平利用があります。

ここで,「データ・オーナーシップ」とは,データ創出に寄与した者によるデータの利用・活用権限の主張を公平に認めていくという考え方です。

これから,あらゆるものがインターネットにつながり(IoT「Internet of Things」),モノのデータ化,それに基づくモノの最適化,自動化等が進められていくことになります。

例えば,身近にある給湯器ひとつをとっても,利用者の利用頻度や時間帯を情報化し,利用者の利用状況にあわせて適温にしておく頻度や時間帯をコントロールすることができれば,利用者にとって便利であるだけでなく,省電力化にも寄与することができます。

また,産業機器においては,稼働ラインの効率化,適時の部品交換等で産業機器を提供する側,利用する側の両方に経済的なメリットが生まれます。

ところで,「営業秘密」でない限り,情報そのものが法的に保護されることはありませんので(IoTによって蓄積される個々の情報が「営業秘密」に該当することはありません。),結果として,IoTによって蓄積された情報は,情報が管理されているサーバーを事実上支配している者が,情報も独占的に支配することになります。

他方で,データ創出に寄与した利用者が,集積されたデータの利用を権利として主張することができるかという,現在のところそのような権利は存在しません。

データ創出に寄与した個々の利用者が創出されたデータ利用による恩恵を受けることができないのは不公平であるとの素朴な思いが「データ・オーナーシップ」の考え方につながっていくのです。

データ保有者とデータ創出寄与者との不公平を是正する方法としては,データ保有者による自発と法律による是正の二つの方法が考えられます。

政府は,現状では前者を選択し,データの創出に寄与した者と契約することにより,利用権限や利用範囲を明確化し,データ保有者がデータ創出寄与者に情報を提供することを目指しています。

なお,経済産業省では,事業者間でデータの利用権限が明確となっていないことが,データ流通が進まない原因になっているとの考えの下,事業者間の取引に関連して創出,取得または収集されるデータの利用権限を契約で適正かつ公平に定めるための手法や考え方を整理した「データの利用権限に関する契約ガイドラインVer1.0」が示されています。

ガイドラインは,取引で創出されるデータについては,特定の事業者において過剰に囲い込まず,広く利用・活用されるべきである,?当事者で協議して柔軟に利用条件を取り決め,利用権限を公平に定めていくことが必要であるという考え方の下で示されています。
そして,ガイドラインでは,取引対象としてデータを提供する場合に,以下の項目について契約時に交渉して条項化しておくことが望ましいとされています。

  1. データ内容・提供方法・仕様
  2. 利用範囲・取扱条件
  3. データに知的財産権が認められる場合の権利帰属先
  4. 対価
  5. データ提供者の義務
  6. データ受領者の義務
  7. 遵守事項
  8. 不可抗力免責
  9. 契約解除,期限の利益喪失
  10. 秘密保持義務

政府は,以上のとおり,当事者間の自由な交渉によりデータ流通が行われることを前提に,契約の範囲を逸脱した自由競争の枠外にある者を法律によって規制しておく必要があると考えています。
そして,契約の範囲を逸脱した自由競争の枠外にある者に対する規制として設けられたものが,今回の不正競争防止法の改正なのです。

ですから,今回の不正競争防止法の改正により保護の対象となるのは,契約により提供された相当量のデータになりますので,それを「限定提供データ」と定義しました。

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相当量のデータであってもこれを外部に提供せず,自社のみで利用,活用している場合には,これは,「限定提供データ」ではなく,「営業秘密」と認められない限り不正競争防止法による保護を受けることができません。

政府としては,データ提供にあたってのガイドラインを示し,契約に反した情報利用があった場合の立法的手当てを行うことで,企業が自発的にビッグデータを流通させることを期待しているのです。

個人的にも,ガイドラインと今回の不正競争防止法の改正により特定の企業がビッグデータを独占することなく,まさしく,市場において利用・活用されることを望みます。
早くも世界的なプラットフォームを提供する企業と世界的な展開を行っている非常に規模が大きな企業とが提携し,ビッグデータの利用・活用に取り組んでいる様子を散見することがあります。

しかし,製品やサービスが均質化し,情報が競争力を左右するという現在において,企業が潜在的に競業者になりうる企業を含めて,情報を市場に提供していくかといういと,その点については懐疑的な思いを持っています。

ビッグデータの寡占化すすみ,企業の自発的な判断では情報の市場流通が十分ではないと判断された場合には,独占禁止法より情報の市場流通を促進させていかなければならなくなると思うのですが,世界における日本の企業の競争力低下を考えた場合,そのような判断を日本のみが先行して行うことはできないと思います。

ビッグデータの市場流通の問題は,世界的に議論を行っていかなければならない問題ですし,世界的に共通のルールを作り上げていく必要があると考えています。

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