ビッグデータ保護のための不正競争防止法改正案が閣議決定され,国会審議が行われることになりました。
不正競争防止法改正案の内容については,「ビッグデータ保護に向けた法改正」を参照してください。
今回の法改正は,ビッグデータのようなデータ形式で蓄積された相当量のデータで管理されているものを「限定提供データ」と定義し,「限定提供データ」を営業秘密と同様に保護するとうものです。
不正競争防止法による「限定提供データ」の保護を理解するためには,「営業秘密」の保護について,きちんと理解しておく必要があります。
不正競争防止法では,従前より「営業秘密」に対する一定の行為が不正競争行為と定められ,保護されてきました。
そして,「営業秘密」は,データ形式で管理されているものに限らず,紙媒体であったり,ネガであったり,あるいは,ひな形であったり,管理の方法に制限がありませんでした。
他方,「限定提供データ」は,電子的方法,磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法(電磁的方法)で管理されているものに限られています。
営業秘密は,秘密として管理され,有用で,かつ,公然と知られていないものをいい,秘密として管理されているか否かが問題となりました。
この「秘密として管理されている」か否かは,外部者から見て,客観的に秘密として管理された状態にあるか否かがポイントとなります。
そして,民事裁判において,客観的に秘密として管理された状態にあるか否かは,対象となる情報の経済的価値に応じて,厳格に解釈されたり,あるいは少し緩和して解釈されているのではないかと思っています。
営業情報と技術情報とでは技術情報の方が緩和される傾向にあり,技術情報の中でも技術的に,あるいは経済的にみて価値ある情報では,少し緩和して解釈する傾向があるように思っています。
それでも,裁判所において,秘密として管理された状態にあるか否かを客観的に確認することができることが求められている理由は,不正競争防止法が行為規範になっているからです。
第三者の立場からすれば,どの情報が営業秘密であり,どの情報が営業秘密ではないのかが判断できなければ,過度に経済活動が阻害されることになって困ります。
そして,ここが重要なのですが,営業秘密に関する不正競争行為の中には刑事罰が科され,刑事罰の内容が非常に重いということです。
自然人であれば懲役10年以下,2000万円以下の罰金を課されますし,法人が関与していた場合には最高で5億円の罰金を課されます。また,国外で使用する目的があった場合には,自然人の罰金3000万円以下,法人の場合には10億円以下の罰金が科されます。
不正競争防止法の改正は頻繁に行われてきましたが,営業秘密に関する刑事罰は改正のたびに重罰化され,罰金については最も重い刑罰が科されるようになりました。
このような重い刑事罰が科されるわけですが,営業秘密の要件が厳格に解釈され,客観的にみて秘密として管理された状態にあるかということが非常に重要になってくるのです。
なお,個人的には,民事的(差止請求や損害賠償請求を認める場合)と刑事罰を科す場合とで,秘密管理性の要件の厳格性に差があってしかるべきであると考えています。
「限定提供データ」についても「営業秘密」と同様に第三者の行為規範となるわけですから,客観的にみて管理されているということが確認できる状態になければなりません。
ただし,秘密として管理されている必要がないわけですから,「営業秘密」と比較すると管理の程度が低くてもよいということになるのだろうと思います。
また,「限定提供データ」は,特定の者に提供することを前提とする電磁的方法により管理された情報ですが,相当量蓄積されている必要があります。
しかし,どの程度の情報が蓄積されていれば相当量蓄積されていると評価されるのか必ずしも明らかではありません。
今回の法改正は,ビッグデータの活用を促す点にあるわけですが,一般的にビッグデータと評価されうる程度に膨大な情報が蓄積されている必要があると思いますが,具体的な線引きを行うことはできません。
「限定提供データ」については,どの程度量の情報を指すのか,どの程度の管理が必要になるのかは,今後の裁判例の積み上げによって見えてくるようになります。
そのことと関係して,「限定提供データ」に関する不正競争行為に対して罰則規定を設けることは,今回の改正では見送られました。
他方で,第三者から見て,これは管理された「限定提供データ」である,これは管理された「限定提供データ」ではないということをある程度判断することができるようになると,「営業秘密」と同様に,罰則規定を設けることが検討されるようになるのではないでしょうか。