弁護士視点で知財ニュース解説

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美術館に展示されている絵画を撮影することって違法なの?

美術館に展示されている絵画は,代表的な著作物の一つです。
基本的には,絵画を創作した人に著作権が帰属し,著作権法で定められた一定の行為を行うと著作権侵害になります。

それでは,著作権法には,どのような行為を行ってはいけないと規定されているのでしょうか。

まず,複製です。
著作権法では,「印刷,写真,複写,録音,録画その他方法により有形的に再製すること。」を複製と定められていますので,絵画を撮影する行為は著作権者の複製権を侵害する行為にあたり,禁止されています。

また,絵画を撮影した写真をインターネットで送信すると著作権者の公衆送信権を侵害する行為にあたりますので,これも禁止されています。
インターネットの関係では,実際に送信する行為だけでなく,サーバにアップロードして何時でもインターネット上で閲覧することができる状態に置いただけでも著作権侵害となりますので,アップロード自体が禁止されています。

ただし,著作権には保護される期間が定められており,絵画ですと,創作した方が亡くなられてから50年経過すると著作権法により保護されなくなります。
ですから,創作した方が亡くなられてから70年(但し,1967年以前に著作者が亡くなられている作品については2017年《50年》)以上経過した絵画は,著作権法による保護を受けることができない著作物となるのです。

著作権法による保護が受けられなくなった著作物とそれを写真複写したものの利用については,非常に有名な最高裁判決があります。
8世紀の中国(唐の時代)の著名な書家の手による「顔真卿自書建中告身帳」の写真乾板を譲受けた者が,写真乾板を用いて複製することは原本の所有者の権利を侵害することになるのかということが争われた事件です。

cont_img_42.jpgこの事件で,最高裁は,「著作権の消滅後は,所論のように著作権者の有していた著作物の複製権等が所有権者に復帰するのではなく,著作物は公有(パブリック・ドメイン)に帰し,何人も,著作者の人格的利益を害しない限り,自由にこれを利用しうることになるのである。したがつて,著作権が消滅しても,そのことにより,所有権が,無体物としての面に対する排他的支配権能までも手中に収め,所有権の一内容として著作権と同様の保護を与えられることになると解することはできないのであって,著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても,右行為は,原作品の所有権を侵害するものではないというべきである。」と判断し,写真乾板を用いて複製することを認めました。

この最高裁判決は,著作権法の保護期間が経過した絵画についてもあてはまりますので,原本を棄損しない限りで撮影する行為,撮影したものをインターネットで公開する行為は認められるということになります。

ところが,美術館では,必ずといってよいほど,「撮影禁止」という告知が行われています。

撮影禁止の理由は,おそらく絵画に「フラッシュ」をあてることで絵画が劣化するということなんだと思います。

仮に,絵画に「フラッシュ」をあてることによって絵画が劣化するとして,それを立証することは大変困難であると思いますので,写真撮影を行ったことで絵画が劣化したことを理由に,特定の撮影者を訴えるということは困難ではないかと考えています。

ただし,絵画の写真撮影を認めると多数の人が絵画を撮影し,絵画に繰り返し「フラッシュ」をあてることになり絵画が劣化することが想像できますので,写真撮影はやめてください。

また,館内のルールに違反するということは,美術館の管理者の施設管理権を侵害するという別の法的問題が発生することにもなりますので注意してください。

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