弁護士視点で知財ニュース解説

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NHKが講談社に敗訴 小説のドラマ化の契約成立認められず

NHKが小説をドラマ化する契約を一方的に破棄されたとして,講談社を相手に6000万円余りの支払いを求めていた裁判で,東京地裁は平成25年4月28日,「原作者が脚本を承認しておらず,契約は成立していなかった」として,NHKの請求を棄却しました。

問題となった小説は辻村深月さんの「ゼロ,ハチ,ゼロ,ナナ。」で,この小説をドラマ化する契約が成立していたのか否かが争点となりました。

NHK側は,平成23年11月に講談社との間でドラマ化の契約を締結し,平成24年5月に連続ドラマとしてスタートするため,脚本の執筆や出演者の一部内定などの準備を進めていたところ,平成24年2月に講談社から「白紙にする」と一方的に契約を破棄された撤回されたと主張し,ドラマの準備に要した費用等が損害にあたるとして6000万円余りの損害賠償を求めていました。

これに対し,東京地裁は,「原作者が,意に沿わない脚本のままドラマ化されてしまうと心配したのも無理はない。脚本が承認されていない以上,ドラマ化の契約が成立していたとは言えない」として,NHKの請求を退ける判決を下しました。

そもそも,小説の作者等の著作者は,「その著作物を翻訳し,編曲し,若しくは変形し,又は脚色し,映画化し,その他翻案する権利を専有」し(この権利を「翻案権」といいます。)ており,同時に,「その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し(この権利を「同一性保持権」といいます。)ています。

この結果,小説やコミックなどをベースにドラマ化や映画化するためには,原作者の承諾が必要になり,原作者の承諾が得られていない場合には翻案権,同一性保持権の侵害となります。

そして,小説やコミックなどをドラマ化や映画化される場合には,原作者に脚本の確認を行うことは当然のこと,ときには出演者についても確認を求め,著作者が小説やコミックによって表現した内容を損なうことがないかにつき確認を行わなければ,のちのちトラブルになる可能性があります。

原作者が出来上がった映画やドラマを見て,原作との違いからトラブルになっている例が散見されますが,これは小説やコミックにおいて表現した原作者の思いと,商業ベースで制作する映画やドラマの制作者側の思いとの間に違いがあるために生じるトラブルです。

このように,小説やコミックなどをドラマや映画にするときには,ドラマ化や映画化が決定された後に原作者との間で確認を行っていき,具体的なドラマや映画の内容を決定していかなければ契約の内容も具体的に定まりません。

おそらく,今回の件でNHK側は,ドラマ化をすることの承認のみを得て,原作者に十分な確認をとることなく準備を進めて行ったとこころ,原作者側からストップをかけられたのではないかと思います。

このことは,ドラマ化を行うにあたって契約書すら作成していなかったという一事からも推測可能です。

そして,東京地裁は,当事者の間で協議が行われておらず,小説をドラマ化するという契約の内容が定まっていない,つまり当事者で話しあって決めたことは小説を映画化する契約としては成熟しておらず,未だ契約が成立するに至っていないと判断したのであろうと想像しています。

テレビ業界では,契約書を作成することなく,契約書を作成したとしてもA4一枚の簡単な契約書で話を進めていくということが多く,後日にトラブルになることが少なくありません。

そして,ドラマが低迷している最近では小説やコミックのドラマ化が頻繁に行われているところですが,原作者とのトラブルを回避する意味でも話が煮詰まってきた段階で契約書を作成することを検討すべきであると考えています。

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