最高裁は,平成27年4月28日,JASRACと放送局等が締結している「包括徴収方式」につき,独占禁止法が禁止する「私的独占」に該当するおそれがあると判断しました。
JASRACは,各放送局と年間契約を結び一括して楽曲の使用を許可し,代わりに包括料金を受け取る「包括徴収方式」をとっています。
このような包括ライセンス方式は諸外国においても採用されており,放送で使用するたびに使用許諾や使用料を交渉することは実務的に不可能であること,包括ライセンス方式が様々な媒体での楽曲の流通を促進する効果をもっていることから,包括方式ライセンス方式については問題ありません。
ただ,JASRACが求める契約では,管理曲の利用数を問わず年間で放送事業収入の1.5%を使用料として支払うと定められていることから,JASRAC管理楽曲以外の楽曲を使用しようとすると,JASRACに対して支払う放送事業収入の1.5%に加えて楽曲使用料が発生するため,放送局等は,JASRAC以外の団体が管理している楽曲の使用を回避しようとするところに問題があります。
楽曲管理団体であるイーライセンスは上記問題点を指摘して公正取引委員会に対して申し立てを行ったところ,公正取引委員会は,平成21年,放送事業者と結んでいる包括許諾契約が新規事業者の参入を妨げているとして,JASRACに対して排除措置命令を出しました。
JASRACは,公正取引委員会の命令を不服として審判の申立てを行なったところ,公正取引委員会は,平成24年6月,排除措置命令を取消す審決を下しました。
これに対し,イーライセンスは,公正取引委員会の審決を不服として東京高裁に対して審決取消訴訟を提起したところ,東京高裁は,平成25年11月1日,放送局がイーライセンス管理曲の利用を回避する旨の内部文書が存在したことなどを根拠に,「審決の認定は実質的証拠に基づかず,その判断にも誤りがある」,「他の事業者を排除している」として,公正取引委員会の審決を取消し,「現在の包括徴収方式が公共の利益に反するか」等の条件を満たすかも含めた検討を行うべく,審議を公取委に差戻しました。
東京高裁の判決を受けて,JASRACと公正取引委員会は,平成25年11月13日,最高裁に対して上告を行ったところ,下された判決が今回の判決です。
最高裁は,「放送局は,包括契約によって,使用料の追加負担が生じないJASRACの楽曲を選ぶことになり,他の事業者が管理する楽曲の利用は抑制される。」と指摘し,東京高裁の判決を維持しました。
この結果,再び公正取引員会による審議が再開されることになります。
JASRAC,イーライセンス,ジャパン・ライツ・クリアランスの管理会社三社,NHKや日本民間放送連盟等の放送事業者は,既に検討会を設置しており,楽曲の利用実績に応じた徴収制を導入することも視野に議論を行っているようです。
現在の包括契約,定額料金システムを維持しつつも,楽曲の利用実績の把握,それを前提にした各管理業者に対する楽曲の利用に応じた支払いを行うことは技術的に困難なことではないと思います。
現在のシステムは,著作権者による管理会社の選択にも大きな影響を及ぼしているものと推測されるところですので,早期のシステム作りが望まれるところです。