弁護士視点で知財ニュース解説

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IoT時代の標準必須特許ライセンス(3)

cont_img_81.jpg標準必須特許のライセンス交渉において,特許権者と実施者との交渉が決裂すると訴訟になります。

しかし,交渉段階で,特許権者側が不誠実であると評価されると特許権侵害による差止請求が認められなくなる方向に働き,実施者側が不誠実であると評価されると特許権侵害による差止請求が認められる方向に働くことになります。

この点につき,「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き(案)」に示された,交渉の各段階で,各当事者が不誠実であるとの評価を受けることがないような対応が,どのようなものであるかについて確認していきましょう。

特許権者がライセンス交渉のオファーをする段階

特許権者は,標準必須特許が侵害されていることが疑われる場合には,当該特許を特定し,侵害態様を明らかにするとともに,実施者と交渉を開始することになります。

なお,特許権者がライセンス交渉のオファーなどを行うことなく訴訟を提起した場合には,不誠実であると判断される可能性があります。

その際に特許権者が示す資料として以下のものが整理されています。

  • 標準必須特許を特定する資料
  • 標準規格や製品と標準必須特許の請求項との対応関係を示す資料(クレームチャート)
  • 標準必須特許の必須性を示す資料(標準機関に対するFRAND宣言誓約書)

なお,特許権者が上記した資料を提示しない場合には,不誠実であると判断される可能性があります。

実施者がライセンスを受ける意思を表明するまでの段階

特許権者からライセンス交渉のオファーを受けた実施者は,内容に異論がある場合であっても,当該オファーを放置せずに,特許権者に対して誠実に応答しなければなりません。

なお,ドイツの裁判例を引用して,実施者は,標準必須特許の必須性,有効性,侵害の該当性について議論が継続している場合であっても,こうした論点について留保しつつ,速やかにライセンスを受ける意思を表明しなければならないとする見解がありますと指摘されています。

しかし,必須性,有効性,侵害該当性につき,過去に,第三者が行った裁判所などで認められなかった主張と同様の主張を行っており,改めて主張を行ったところで,明らかに認められることがないという場合には,上記した指摘は妥当といえるのかもしれませんが,そうでない場合や,過去にこれらの主張が行われたことがない場合に,必須性,有効性,侵害該当性につき議論を行っている段階でライセンスを受ける意思を表明しなかったからといって実施者が不誠実であると評価されることはないのではないかと,個人的には思っています。

あるいは,何人も同一の事実及び同一の証拠に基づいて審判を請求することができないと規定されていた特許法167条が,当事者及び参加人のみ限定するという特許法改正が行われたことを考慮すると,第三者が行った裁判所などで認められなかった主張と同様の主張であったとしても主張を行っている限り,ライセンスを受ける意思を表明しなくても不誠実であるとの評価に働くことがないのかもしれません。

実施者が事業の差止めを受けるということを確実に回避することを主眼とするのであれば,侵害性や有効性などにつき争う一方で,ライセンスを受ける意思を表明しておくというのも一つの方法ではないかと思います。


実施者は,標準必須特許の侵害該当性に関する主張を行う場合には実施している技術情報の開示,有効性を主張する場合には根拠となる先行技術の提示を行わなければ不誠実であると判断される方向に働きます。

そして,応答までの期間を徒に長期化させることも不誠実であると判断される要因となりますので,多数の標準必須特許が問題となり回答に時間を要する場合には,そのことを特許権者に通知すべきであるとの指摘が行われています。
また,特許権者が開示した情報が不十分であり,これを理由に対応を行わない場合にも実施者が不誠実であると評価される方向に働きますので,実施者としては,特許権者に情報開示を求める応対を行っておくべきです。

特許権者がFRAND条件を提示する段階

実施者がFRAND条件でライセンスを受ける意思を表明した場合,特許権者は,FRAND条件によるライセンス条件を書面で速やかに実施者に対して提示します。

なお,欧州連合司法裁判所が示した解釈を前提にする限り,特許権者は,実施者が,必須性,有効性,侵害該当性を争っていることを理由に,実施者のライセンスを受ける意思を拒否すれば不誠実であると評価される方向に働くことになりますので,FRAND条件の提示を行うべきです。

特許権者は,提示した条件が合理的であり非差別的なものであるかどうかについて実施者が的確に判断できるように,ロイヤルティの算定方法に加え,それがFRAND条件であることを説明する具体的な根拠を示す必要があります。

なお,FRAND条件を提示する前に,優位に交渉を進めることを目的として,ライセンスを受ける意思を表明した実施者に対して差止請求訴訟を提起する,交渉中にもかかわらず実施者の取引先に対して警告書を送付する,明らかに不合理な条件を最初に提示するなどの行為は,特許権者が不誠実であると評価される方向に働くと指摘されています。

実施者がFRAND条件のカウンターオファーをする段階

実施者は,特許権者が提示したFRAND条件に異論がある場合,FRAND条件のカウンターオファーを行うことになります。

実施者は,当該カウンターオファーの中で,ロイヤルティの算定方法に加えて,それがFRAND条件であることを示す具体的な根拠を示すことが必要です。

なお,実施者によるカウンターオファーについては合理的な期間内行う必要がありますが,必須性,有効性,侵害性について議論が行われている場合にはカウンターオファーを行わなくても不誠実と評価される方向に働かないと考えることができると指摘されています。

しかし,特許法167条の改正趣旨を前提にすると上記のとおりであると言えなくもないのですが,第三者が行った裁判所などで認められなかった主張と同様の主張を行っており,改めて主張を行ったところで,明らかに認められることがないという場合には,不誠実であると評価される方向に働く可能性を否定することはできないと考えています。

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